養育費請求権は5年で消滅?時効を阻止する方法とは
「別れた夫から養育費が支払われなくなりました。最初は、忙しくて忘れているだけかなと思っていましたが、支払われなくなって半年が経過したので電話をしてみました。しかし、相手が出ることはありませんでした。あまり何度も電話をかけることに抵抗があり、待っていればまた相手から連絡がくると思っていたのですが、結局それから4年が経ってしまいました。今からでも請求はできますか。」
離婚時、せっかく養育費を取り決めたものの、途中で支払いが止まってしまうことは少なくありません。
そんな時、相手にお金を請求することや連絡をとることにどうしても抵抗を感じる方もいると思います。
だからといって放っておくと、あとで後悔することになるかもしれません。
本コラムでは、養育費請求の時効について解説します。
なお、本コラムは令和2年4月1日から施行されている民法改正に対応しています。
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目次
1 養育費の請求には時効がある
(1)養育費の時効のルール
結論から言うと、養育費を請求する権利は、時効によって消滅します。
しかし、養育費の時効期間は一律ではなく、後述する養育費をどのような方法で取り決めたかにより異なります。
また、時効によって消滅しますが、すべての養育費が一度に時効にかかるわけではありません。
毎月支払うべき養育費が順次時効にかかっていきます。
例えば、令和4年1月の養育費は、支払期限である令和4年1月31日の翌日である2月1日から時効期間がスタートすることになり、令和9年1月31日の経過をもって、令和4年1月分の養育費は消滅時効にかかるといった具合です。
そのため、できるだけ早く対応をとることが重要といえます。
もっとも、すべての養育費が一度に時効にかかる場合もあります。
(定期金債権の消滅時効)
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つまり、10年間放置し続けると、養育費をもらう権利そのもの(「定期金の債権」)、つまり将来発生する養育費についても、請求できなくなる可能性もありますので注意してください。
2 取り決め方法によって養育費請求権の時効期間が異なる?
養育費を取り決めた方法によって時効期間は異なります。
(1)公正証書で養育費を取り決めた場合
離婚時に公正証書で養育費を取り決めることがあります。
公正証書とは、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことで、改めて裁判を提起することなく強制執行が可能となる点にメリットがあります。
この場合、養育費の時効は5年となります。
(債権等の消滅時効)
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(2)協議離婚合意書で養育費を取り決めた場合
離婚時に公正証書ではなく、協議離婚合意書で養育費を取り決めることがあります。
協議離婚合意書とは、夫婦が離婚することや養育費などの離婚条件を取り決めた場合に、合意をした内容を任意の書面で残したものです。
この場合、公正証書の場合と同様に、養育費の時効は5年となります。
(3)調停で養育費について合意した場合
話し合い(協議)によって、夫婦が離婚することや養育費などの離婚条件がまとまらない場合には、家庭裁判所における調停で解決することがあります。
調停とは、裁判のように裁判官が一方的に判決を下して解決を図るのではなく、調停委員が話し合いの間に入って、話し合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。
調停によって養育費が取り決められた場合、調停調書が作成されます。
この場合、過去の未払い分についての消滅時効は10年となります。
将来分の養育費については、5年のままであるため注意が必要です。
(4)口約束で養育費について取り決めた場合
離婚時あるいは離婚後に口約束で養育費について取り決めることがあります。
口約束であっても、合意が成立しているため養育費を請求する権利は発生します。
この場合、養育費の消滅時効は5年となります。
しかし、相手が支払わなくなってしまい、合意の存在を否定し争うこととなった場合、合意の存在を立証することは困難で、未払いの養育費の請求は認められない可能性があります。
そのため、口約束で済まさずに法的に有効な合意書を作成することおすすめします。
3 養育費請求権の時効を阻止する方法とは?時効の更新や猶予の仕組み
上記の通り、養育費を請求する権利は時効によって消滅します。
一度時効によって消滅した権利を行使することは、非常に困難です。
しかし、これは何もせずに時効が進行してしまった場合です。
時効の進行を止める方法は存在します。
そこで、養育費の時効を阻止する方法を詳しく解説します。
(1)時効の更新と完成猶予について
養育費の時効は、時効の更新(中断)をしたり完成猶予(停止)させたりすることが可能です。
①時効の更新
時効の更新とは、一定の事由の存在によって、新たな時効の進行が開始することをいいます。
つまり、ある事由が発生することによって経過した時効期間がリセットされるのです。
更新後の時効期間の長さは、原則として更新前の時効期間と同じです。
ただし、裁判所の判決などによって確定した権利の消滅時効期間は、民法169条により10年となります。
【例】
(承認による時効の更新)
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②時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、一定の事由が発生した場合に、その事由の継続中およびその事由の終了時から一定期間が経過する時までの間は時効が完成しないこといいます。
つまり、進行していた時効がある事由をきっかけにストップし、ある事由が消滅したあとに続きから時効が進行することになります。
【例】
(天災等による時効の完成猶予)
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(2)養育費の時効を具体的に阻止する方法
①裁判上の請求による時効の更新
裁判上で養育費の請求をした場合、裁判中は時効にかかりません。
裁判によって権利が確定しなかった場合、裁判終了の時から6ヵ月を経過するまでの間は時効の完成猶予がなされます。
裁判によって権利が確定した場合、時効の更新が認められ、リセットされた時効が新たにスタートすることになります。
②差押え・仮差押えによる時効の更新と完成猶予
差押えを申し立てた場合、その強制執行が終了するまでの間、時効の完成猶予がなされます。
申立てを取り下げた場合や仮差押えをした場合であっても、取下げから6ヵ月を経過するまでの間は時効の完成猶予がなされます。
強制執行が終了した場合、時効の更新がなされます。
③催告による時効の完成猶予
催告とは、裁判外で、債権者が債務者に対して、債務の履行のために一定の行為を要求することをいいます。
催告をすると、その時から6ヵ月を経過するまでの間は、時効の完成猶予がなされます。
ただし、時効の完成が猶予されている間に再び催告を行っても、さらに時効の完成猶予がなされるわけではないので注意してください。
催告は、内容証明郵便によって行うことが一般的です。
内容証明郵便による催告によって、相手に対して養育費の支払いを心理的に促すことが可能であり、時効の完成を猶予する以外の効果も期待できます。
④協議を行う旨の合意による時効の完成猶予
令和2年4月1日の民法改正によって、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予が新設されました。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
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この規定によって、時効にかかってしまいそうな債権がある場合、書面での合意を取り交わして一時的に時効を完成猶予させておくことが可能となります。
例えば、未払いの養育費を催促し、相手が「その件で話し合いたい」などとの返信がきた場合、未払いの養育費については時効の完成が猶予されます。
上記の例で注意しなければならないのは、催告ではなく催促であることです。
単に未払いの養育費を求める内容である場合は催促となりますが、裁判の提起などの法的措置を取ることを視野にいれているといった内容である場合は催告となります。
催告中に協議を行う旨の合意があったとしても、時効の完成猶予は認められないため注意してください。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
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⑤債務の承認による時効の更新
債務の承認があった場合、時効がリセットされ新たに時効がスタートします。
例えば、相手が自分に養育費の支払い義務があることを認めることです。
4 養育費請求権の時効が成立したらどうなる?
養育費の時効が成立した場合、養育費を請求する権利は消滅します。
しかし、諦めるのはまだ早いです。
早急な対応をとることで養育費を請求することができるかもしれません。
(1)養育費の時効が成立しても請求できる場合
養育費の時効期間が過ぎてしまっても、自動的に相手の支払義務が消滅するわけではありません。
時効によって確定的に支払い義務が消滅するためには、相手が「時効の援用」をする必要があります。
「時効の援用」とは、当事者が時効の利益を受ける意思を表明することをいいます。
つまり、養育費を支払う義務がある相手が「養育費の支払い義務は時効によって消滅しているため、私は支払いません。」と主張することです。
時効が過ぎても支払いたいと思う人はいるでしょうし、そのような人の意思を尊重するために時効の援用という制度が認められているのです。
また、時効期間が経過した後、時効の援用をする前に相手が債務の承認にあたる行為をした場合、その後に時効の援用が認められなくなる可能性があります。
例えば、時効期間が経過しているにもかかわらず、相手が「もう少しだけ待ってほしい。払うから。」と言った場合です。
そのため、相手が時効の援用をする前に、相手に債務の承認をさせることで、養育費の支払を求めることができるようになります。
5 まとめ
今回は、養育費請求権の時効について解説しました。
離婚時、せっかく養育費を取り決めたものの、途中で支払いが止まってしまうことは残念ながら少なくありません。
何度も相手に自分から連絡をとることは時間と労力を要するのみならず、精神的負担も大きいものです。
しかし、放っておくと養育費を請求することができなくなってしまいます。
養育費を請求する権利は、子供の今後の人生にも関わる大切な権利です。
もし、どうすればいいか分からず不安な様でしたら、一度弁護士に法律相談をすることをお勧めします。弁護士に依頼した場合、養育費の請求のみならず、差押えなど養育費の回収についても相談が可能です。また、証拠収集から示談交渉、裁判手続に至るまでを弁護士が代わって処理することで、ご依頼主の心理面、労力面での負担が大きく緩和されます。
弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイには、離婚や養育費の請求に関する豊富な経験と知識を有する弁護士が多く所属しています。また、弁護士費用に関してもご安心下さい。当事務所は、地元に密着し、依頼者に寄り添う法律事務所として、良心的な費用を設定しております。
また、初回法律相談は無料となっておりますので、離婚や養育費に関することでお悩みの方は、お一人でお悩みになるのではなく、一度、当事務所にご相談下さい。誠心誠意ご対応させていただきます。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。