不倫を職場で言いふらすと名誉棄損になる?事例を紹介
目次
1 はじめに
不倫の被害者としては、怒りのあまり不倫を言いふらす可能性がありますし、また、人の不倫を知った第三者が不倫を言いふらす可能性があります。しかしながら、不倫を言いふらしたとしてもいいことはありません。
不倫を言いふらした場合には名誉棄損に当たるのでしょうか?
以下では、不倫の言いふらしとして考えられるケースと不倫を言いふらした場合の法的責任について解説していきます。
2 不倫の言いふらしのケース
不倫の言いふらしには次のケースが考えられます。
(1)不倫の被害者が言いふらす場合
例えば、AさんとBさんが夫婦であり、BさんがCさんと不倫をしたとします。AさんがBさんとCさんの不倫を知り、怒りのあまり、Bさんの職場でBさんとCさんの不倫を言いふらしたり、AさんがCさんの職場に乗り込んで不倫を言いふらすケースが考えられます。
(2)第三者が言いふらす場合
例えば、BさんとCさんが不倫関係にあり、不倫関係にあることをたまたま知ったAさんが、BさんとCさんの不倫を言いふらすケースが考えられます。
3 不倫を言いふらした場合の民事責任
不倫を言いふらした場合、言いふらされた方から不法行為に基づく損害賠償を請求される可能性があります。
不法行為に基づく損害賠償は民法709条で次の通り規定されています。
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
上の例によれば、BさんとCさんの不倫を言いふらしたAさんは、BさんとCさんの名誉を毀損したものとしてAさんはBさんやCさんから不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。そのため、本来ならば慰謝料を請求される立場にある人が、逆に損害賠償を請求されてしまうおそれがあります。
4 不倫を言いふらした場合の刑事責任
不倫を言いふらす場合、以下の犯罪が成立する可能性があります。
(1)名誉棄損罪
刑法230条1項は名誉棄損罪について次のように規定しています。
刑法230条1項「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」
名誉棄損罪の成立要件は「公然と」「事実を適示し」「人の名誉を毀損した」ことです。
「公然と」とは、不特定又は多数人が知り得る状態をいいます。
「事実を適示し」とは、人に事実を告げることをいいます。
「人の名誉を棄損した」とは、人の社会的な評価が低下させ得ることをいい、実際に社会的な評価が低下することまでは要求されません。
そのため、不倫を言いふらす行為は、不特定又は多数人が知り得る状態であり、不倫は事実を告げることに当たり、不倫をした人の社会的な評価を低下させる行為といえます。
したがって、不倫を言いふらすと名誉棄損罪が成立する可能性があり、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
(2)侮辱罪
刑法231条は、侮辱罪について次のように規定しています。
刑法231条「事実を適示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」
侮辱罪の成立要件は「公然と」「人を侮辱した」ことです。
侮辱罪と名誉棄損罪との違いは、「事実の適示」があるかどうかによって区別されます。
したがって、事実を適示することなく暴言等によって人を侮辱した場合には侮辱罪が成立します。
例えば、相手方の職場など多数の人がいるような場所や多数の人が見るようなSNS上で、相手方に対して「変態」や「淫乱」などの発言や書き込みをして罵倒した場合、これらの発言や書き込みは事実ではないことから、名誉棄損罪は成立せず、侮辱罪が成立します。
以上のように侮辱罪が成立すれば、拘留又は科料に処せられることになります。
※拘留とは、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑罰をいいます(刑法16条)。また、科料とは1000円以上1万円未満の納付を命じる刑罰をいいます(刑法17条)。
(3)脅迫罪
不倫相手に対し、夫と別れないと不倫をしていることを言いふらすなど不倫の言いふらしの予告をした場合には脅迫罪が成立する可能性があります。
刑法222条は、脅迫罪について次の通り規定しています。
刑法222条1項「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」
同条2項「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。」
そのため、不倫の言いふらしの予告をした場合には、脅迫罪が成立し2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
(4)恐喝罪
不倫相手に対し、不倫をしていることを言いふらしてほしくなければ100万円を払えと言うように、相手を脅してお金をとる行為について恐喝罪が成立する可能性があります。
刑法249条は、恐喝罪について次の通り規定しています。
刑法249条1項「人を恐喝して財物を交付させたものは、十年以下の懲役に処する。」
同条2項「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同行と同様とする。」
恐喝罪が成立する場合に、10年以下の懲役に処せられる可能性があります。
(5)業務妨害罪
刑法233条及び234条は、業務妨害罪について次のように規定しています。
刑法233条「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。」刑法234条「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」
刑法233条は偽計業務妨害罪を規定し、刑法234条は威力業務妨害罪を規定しています。
偽計業務妨害罪の成立要件は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」「業務を妨害する」ことです。一方で、威力業務妨害罪の成立要件は、「威力を用いて」「人の業務を妨害した」ことです。
「虚偽の風説」とは、行為者が確実な資料・根拠を有しないで述べた事実をいいます。
「偽計を用いて」とは、人の業務を妨害するため他人の不知又は錯誤を利用する意図を持って錯誤を生じさせる手段を施すことをいいます。
「威力を用いて」とは、一般に人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることをいう。
したがって、仕事に支障を与える目的で職場に乗り込み、不倫の事実を言いふらした場合には偽計業務妨害罪が成立する恐れがあります。また、不倫の事実を言いふらしながら、暴れまわるなど暴力的な行動を伴う場合には威力業務妨害罪が成立する恐れがあります。
以上のように偽計業務妨害罪又は威力業務妨害罪が成立すれば、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
5 おわりに
不倫を言いふらした場合、民事上では、不法行為に基づく損害賠償を請求される可能性があり、刑事上では、不倫を言いふらした場合や、不倫を盾に相手に何かを要求すれば、名誉棄損罪や脅迫罪、恐喝罪などの犯罪が成立する可能性があります。そのため、不倫の被害者であれ、人の不倫を知った人であれ、不倫を言いふらさないに越したことはありません。
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このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。