
コラム
既婚者に独身だとだまされて交際をした場合に,既婚男性に貞操権侵害の慰謝料請求できますか?
「婚活パーティーで知り合って付き合った男性が実は既婚者だった」「独身だと嘘をつかれて付き合ってしまった」というケースはよく見られます。あなたが男性が既婚者であることを知らなかった場合には,貞操権侵害を理由として男性に慰謝料を請求できます。
目次
1.貞操権侵害の慰謝料請求について
貞操権の侵害とは
貞操権とは、誰と性的関係を持つか否か選ぶ権利のことを言います。
例えば、男性が独身者だと嘘をついて(既婚者であることを隠して)、女性の「この人は独身者だ」「この人と結婚できる」という勘違いを利用して肉体関係に及んだ場合には、女性のこの権利を侵害したということになり、不法行為法上違法の評価を受けることになります。
一見結果的には既婚の男性と交際し肉体関係に及んでしまったのですから、むしろ女性が男性の配偶者に慰謝料を払うことになると思えます。しかし、男性の「自分は独身だ」という言葉を信じて交際していた場合には、男性の配偶者から女性に対する慰謝料請求を退けて、逆に女性から男性に対して上記貞操権侵害を理由として慰謝料請求をすることができるのです。
貞操権侵害の法的根拠
貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は、法的には不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)としてすることになります。そのため、以下の不法行為の要件を充たす必要があります。
・他人の権利利益を侵害したこと
・故意又は過失
・損害の発生
・因果関係
この貞操権侵害を理由とする慰謝料請求においては、この「他人の権利利益を侵害した」といえるかが問題となります。
2.貞操権侵害の慰謝料請求が認められるケース
貞操権侵害のよくある事例
ワタル(仮名)さん(28歳)はエリカ(仮名)さん(26歳)と平成30年6月中旬に結婚しました。ワタルさんは、令和2年に入って、婚活アプリに登録し、様々な女性と会うようになりました。そのなかの女性の一人であるアカネ(仮名)さん(25歳)に、自分は独身者だと嘘をついて、令和2年4月に交際をはじめ、数回肉体関係を持ちました。
しかし、ワタルさんは急にエリカさんへの罪悪感に苛まれるようになり、令和2年6月にアカネさんに自分が既婚者である旨を打ち明けたうえ、別れを切り出しました。それを聞いたアカネさんはとてもショックを受け、肉体関係を持ったことをひどく後悔しています。
アカネさんはワタルさんに慰謝料を請求することができるでしょうか。
他人の権利利益を侵害した
このケースでは、ワタルさんは、自分がエリカさんと結婚している既婚者であるにも関わらず、独身者だと嘘をついてアカネさんと交際し、肉体関係を持ちました。
婚活サイトに登録しているアカネさんとしては、自身の望む結婚に繋がらない以上、ワタルさんが既婚者だと知っていれば交際をしなかったでしょうし、肉体関係も持たなかったでしょう。ワタルさんの行為は、アカネさんの「ワタルさんは独身者だ」という“誤信”を利用して肉体関係に及んだものであり、アカネさんの「誰と性的関係を持つか否かの意思決定」に不当な干渉をしたといえるでしょう。
この点で、ワタルさんの行為はアカネさんの貞操権を侵害する行為だといえ、「他人の権利利益を侵害した」と認められます。
故意または過失
ワタルさんの登録していた婚活アプリが規約上既婚者の登録を禁止していたり、アカネさんのアプリのプロフィールに結婚を見据えた(真剣な)交際がしたい旨が記載されていたりした場合に,アカネさんは,ワタルさんが既婚者だと知っていれば,交際することも性的関係を持つこともなかったといえます。
それにもかかわらず,独身であると偽って,アカネさんと交際を始め性的関係をもったワタルさんのこの行為に、上記権利侵害についての故意または過失が認められるでしょう。
損害の発生
アカネさんはワタルさんと結婚を前提とした真剣な交際をしていたにもかかわらず、ワタルさんには肉体関係だけの都合のいい女性として扱われたわけですから、アカネさんは相当の精神的苦痛を感じたはずであり、この精神的苦痛をお金に換算したものが「損害」となります。
因果関係
ワタルさんによる上記権利侵害がなければアカネさんは精神的苦痛(損害)を感じなかったはずですから、因果関係も認められ、アカネさんのワタルさんに対する慰謝料請求は認められることになります。
3.貞操権侵害の慰謝料請求が認められないケース
貞操権は誰と性的関係を持つか否か選ぶ権利ですから、ワタルさんとアカネさんの間にそもそも性的関係がなかった場合には、いくらワタルさんが「自分を独身者だ」と嘘をついていた場合でも貞操権侵害の慰謝料請求は認められません。
ただし,性交渉だけでなく,胸や性器を触るなどの性的類似行為などがあった場合にも,性的関係があったものとして貞操権侵害の慰謝料請求が認められることもあります。
4.相手が既婚者かどうかわからなくても調べる方法があります
上のケースだとワタルさんが自分は既婚者である旨を打ち明けたため発覚しましたが、いきなり音信不通になったり、理由なく別れを切り出されたりした場合にも、真実は既婚者であり貞操権侵害の事例である可能性があります。
高額な調査費用を払って探偵に既婚者かどうか調べてもらわなくても、相手の電話番号や住所がわかれば、既婚者か否かについて弁護士の権限で調べられる可能性があります。
5.男性が既婚者だと知ったうえで交際を続けると逆に慰謝料を請求されることも
注意していただきたいのが、男性が既婚者だと知ってもなお交際を続けるようであれば、女性が男性の配偶者から逆に慰謝料請求されることもあり得ますのでご注意ください。
というのも、冒頭で述べました通り、結果的には既婚の男性と交際し肉体関係に及んだことによって男性とその配偶者との家庭の平穏を壊したことには代わりはないのです。女性に対する慰謝料請求が認められないのは、男性の言葉を信じていたがために不法行為の「故意または過失」が認められないからにすぎません。
仮に女性が、「男性が既婚者だと知ったうえ」で交際を続け肉体関係に及んだ場合や、男性のふるまいから「男性が既婚者だと知ることができた」場合には、男性とその配偶者の家庭の平穏を壊したことに対して故意または過失がある、と判断される危険もありますのでご注意ください。
相手の男性が既婚者だとわかったらすぐに交際をやめて弁護士に相談しましょう。
6.貞操権侵害については、慰謝料請求を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください
騙されたことに怒りを感じ、相手を許せないと当然思うでしょう。しかし、感情的になればなるほど交渉は難航するものですし、相手の不誠実な態度で貴女がさらなる精神的苦痛を被ることになってしまいます。貴女が被った精神的苦痛、屈辱に見合った慰謝料を請求し、心機一転新たな出会いを探すためにも、弁護士に対応を任せてみませんか?
貞操権侵害についてのご相談は、慰謝料請求を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。