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中絶妊娠で相手に請求できる慰謝料 請求する側・される側の対処法を解説!

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ポイント説明

1 はじめに

交際相手との性交渉により妊娠をしたとき,交際相手から中絶を求められ,実際に中絶をしたとします。
中絶は,女性側にとって肉体的・精神的な負担は大きいものです。

そこで,女性側から,中絶を求めた交際相手である男性に対し何らかの責任を追及できないのでしょうか?また,女性側に立った場合の,慰謝料を請求する場合とその方法はどのようなものがあるか,について解説させていただきます。
他方で,男性側も,女性側から理不尽に責められ続けたり,極めて高額な慰謝料請求を受けたりすることもあります。その場合の男性側の対処方法についても解説させていただきます。
今回の記事の流れ

2 女性側から男性側に慰謝料請求をする場合

サクッと31秒!解説動画

 

女性側から男性側に慰謝料請求をする場合

(1)慰謝料を請求できる場合

慰謝料は民法709条に基づいて請求することになります。

民法709条は次の通り規定しています。

「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

これを簡略化すると慰謝料請求の条件は,①権利侵害,②故意または過失,③損害の発生とその額,④①と③の因果関係です。
そして,中絶における慰謝料請求の場合に,①権利侵害が特に問題となり,慰謝料請求できる場合が限られます。なぜなら,妊娠中絶は当事者双方の同意に基づき行うものであり,同意に基づく中絶は,原則として①権利侵害がないということになるからです。

したがって,原則として妊娠中絶の慰謝料請求は認められません。

もっとも,あらゆる中絶について慰謝料請求ができないわけではなく,以下のような場合に慰謝料請求ができる可能性があります。

 

①男性側が不誠実な対応を取った場合

この場合については,こちらの記事で詳しく解説させていただいておりますので,こちらをご参照くださいませ。

関連記事:中絶で慰謝料請求は認められるか?判例・相場・流れ・必要な証拠

 

②強姦された場合

これは,中絶による慰謝料請求というよりは,強姦により被った精神的損害に対し慰謝料を請求するというものです。この場合,強姦により妊娠したという事実が慰謝料の額を高額にする事情となります。

 

③実際は避妊していないのに,避妊していると嘘をつかれた場合

交際相手から避妊していると嘘をつかれ,性行為により妊娠し中絶した場合,慰謝料請求が認められる場合があります。なぜなら,嘘をついて相手を妊娠させることは,妊娠をするかどうかの自己決定権を侵害する行為であるからです。

 

④結婚を前提に交際し性交渉をして妊娠したが,実際には交際相手には妻がいて中絶を求められた場合

この場合も,交際相手には妻がいるにもかかわらず嘘をついた場合であり,慰謝料請求が認められる可能性があります。

貞操権侵害の慰謝料請求の関連ページは下記です。
中絶に関するご相談の中で,最も多いのは,このケースだと思われます。

⑤強要や暴力などにより中絶をした場合

妊娠が発覚後,交際相手から中絶を求められ,中絶を強要されたり,中絶に従わない場合に暴力に訴えるなどと脅迫を受けたりしたとき,慰謝料請求が認められる可能性があります。なぜなら,中絶に至るまでの強要や脅迫が不法行為にあたるからです。

上に述べた通り,中絶による慰謝料請求は権利侵害がないので原則として認められませんが,同意がある場合に中絶について慰謝料請求が認められた裁判例(東京高判平成21年5月27日判時2108号57頁)があります。

事案は,女性が子どもを妊娠したにもかかわらず,男性と子どもを産むか中絶するかどうかの具体的な話し合いをせず,その判断を女性にゆだね,結果として女性が中絶せざるをえなくなったとして慰謝料を請求したというものです。
裁判所は,双方が合意の上で性行為に及んだ結果,妊娠したからといってそれ自体が不法行為にあたるのではないことを前提に以下のとおり判断しています。

「共同して行った先行行為の結果,一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合,他方は,その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があり,その義務の不履行は不法行為上の違法に該当するべきである。」
「直接的に身体的及び精神的苦痛を受け,経済的負担を負う被控訴人としては,性行為という共同の結果として,母体外に排出させられる胎児の父となった控訴人から,それらの不利益を軽減し,解消するための行為の提供を受け,あるいは,被控訴人と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し,この利益は生殖の場において母性たる被控訴人の父性たる控訴人に対して有する法律上保護される利益といって妨げなく,控訴人は母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり,それらの不利益を軽減し,解消するための行為をせず,あるいは,被控訴人と等しく不利益を分担することをしないという行為は,上記法律上保護される利益を違法に害するものとして,被控訴人に対する不法行為としての評価を受けるものというべきであり,これによる損害賠償責任を免れないものと解するのが相当である」

すなわち,この裁判例は,女性は妊娠により直接的に身体的及び精神的苦痛を受け,経済的負担を負うので,男性はこれらの負担を軽減,解消する義務があるとして,男性に妊娠後一定の義務を認めています。そして,男性が子どもを産むか中絶するかどうかの具体的な話し合いをせず,その判断を女性にゆだねたという事情から,一定額の慰謝料の支払いを認めています。

 

(2)中絶を理由とする慰謝料の相場

中絶を理由として慰謝料請求が認められるか否か,認められるとしてその金額がどの程度になるかについては,性交渉が任意でなされたか,中絶に対する相手方の態度,双方の年齢や資力,等の個別の事情により異なります。以下では,慰謝料請求が認められた場合を紹介します。

裁判例①80万円
裁判例②160万円
裁判例③200万円
裁判例④200万円
裁判例⑤300万円

 

裁判例①:避妊せず性交渉し妊娠した後,嫌がる女性に執拗にDNA鑑定を求めた結果,男性の子と判明した場合(東京地裁令和2年11月20日)

本判決では,不法行為の成立については,被告が避妊手段をとらずに性交渉を行い,原告を妊娠させたことを中心とするものとされました。

しかし,女性が比較的高齢であったこと,交際の経緯,妊娠発覚後の男性の態度等を考慮した結果,女性が被った精神的苦痛は大きなものであるとして,慰謝料80万円の支払いが認められました。

 

裁判例②:避妊せず性交渉しながら,妊娠発覚後は認知も婚姻もしないと伝え,父親も息子の子と分からない限り話をしない等と伝えた結果,女性は自殺を図り,中絶手術時にも過呼吸に陥る等,女性に生じた精神的苦痛が大きかった場合(東京地裁平成27年 7月31日)

本裁判では,胎児の父となった男性には,中絶手術により女性に生じる肉体的・精神的苦痛や経済的負担を軽減し,あるいは,女性と等しく不利益を分担する義務を負うものとしました。その上で,本件における男性の態度は,このような義務に反するものとして,不法行為を構成するとされました。

そして,中絶に至る一連の男性の態度により,女性は多大な精神的苦痛を被ったものと判断され,慰謝料160万円の支払いが認められました。

 

裁判例③:離婚したと嘘をついて交際を開始し,結婚もほのめかして避妊せず性交渉しておきながら,妊娠すると出産を希望する女性を非難し,中絶を余儀なくさせた場合(福岡高裁令和 3年 9月29日)

本裁判では,クラブ経営者である既婚男性が,離婚したと嘘をつき,将来の結婚を匂わせて女性と交際した上で,避妊具を付けずに性交渉したことが,女性の意思決定の自由を侵害し,不法行為が成立するとしました。そして,妊娠が発覚後に出産を希望する女性を強く非難し,中絶を余儀なくさせたことも,女性の人格権を侵害するとして,不法行為が成立するものとしました。

その上で,不法行為の態様,双方の年齢,中絶により女性が受けた肉体的・精神的苦痛の程度に加え,男性が虚偽の発覚後も不誠実な態度を取り続けていたことを考慮した結果,200万円の慰謝料が認められました。

 

裁判例④:大学准教授である男性と交際していた女性が妊娠したところ,男性は母親の反対を理由に結婚を拒んで中絶を求め,謝罪を拒否し,弁護士を立てると発言した。一連の言動に絶望した結果女性は中絶し,2年間,不眠症や鬱病を発症した場合(東京地判平成27年3月27日)

本件男性は,結婚に障害があれば交際の解消を検討すべきであったのに、交際の解消を求める女性を引き留めて性的関係を継続した挙句,妊娠が判明するや、女性に問題があるとして結婚を拒み妊娠中絶を求めた行為は,被害女性の人格権侵害として不法行為を構成すると判断されました。

その上で,妊娠は,男女の合意による性交渉の結果である以上,妊娠及び中絶により生じた損害は,現実に生じた損害の2分の1を負担すべきであるとした上で,慰謝料200万円の支払いが認められました。

 

裁判例⑤:8年間の交際の後に女性が妊娠し,婚約指輪を送り結納の準備を進め,女性が職場に結婚と出産を報告し休職したにもかかわらず,男性が一方的に婚約を破棄し,中絶手術当日に態度を二転三転させ,中絶手術を遅らせた場合(東京地裁平成21年3月25日判決)

本件では,男性が,正当な理由に基づかず一方的に婚約を破棄したことについて,男性は,女性に生じた精神的損害について,婚約不履行に基づく損害賠償責任を負うものとされました。

その上で,結婚を前提として交際し結納の準備も済ませていたこと,婚約破棄が一方的なものであること,休職し顧客にまで広く結婚と出産を報告していたこと等から,女性に生じる精神的苦痛は大きいものと評価されました。さらには,男性は中絶手術の当日ギリギリに態度を二転三転させ中絶手術が延期された結果,胎児が相当程度まで大きくなっており,中絶手術により生じる女性の肉体的精神的苦痛が大きくなったものとされました。これに加え,男性は,裁判でも明らかに不合理な主張や否認を繰り返しており,徒に女性の精神的苦痛を増大させたものと判断されました。

結果として,慰謝料300万円が認められることとなりました。

 

(3)慰謝料請求以外に請求できる費用~中絶費用は折半?~

中絶で慰謝料を請求する場合,慰謝料に加えて次の費用を請求できる可能性があります。

①中絶手術の費用

基本的に,手術費用は折半されることになります。

 

②中絶手術の費用の相場

妊娠初期(妊娠84日まで)における中絶手術の費用は,妊娠期間や手術方法,手術を依頼する産婦人科に応じて変わりますが,概ね,11万から18万円程度が相場となります。
一方,妊娠中期(妊娠85日以降)における中絶手術の費用は比較的高額となり,概ね,50万円から60万円程度が相場となっています。

もっとも,妊娠85日以降に「出産」(妊娠中絶を含む)した場合,一児につき42万円(産科医療補償制度の対象外の場合は40.8万円)の出産育児一時金が支給されます。そのため,妊娠中期の中絶手術の費用として実質的に負担しなければならない金額は,8万円から18万円程度であると考えられます。

 

③その他

その他の費用として次のものが考えられます

妊娠中の診療費
診察にかかった交通費
妊娠により会社を休んだ場合の休業損害
後遺症が残る場合には後遺症についての慰謝料,逸失利益等

 

(4)中絶による慰謝料請求の方法~内容証明からの示談・訴訟~

中絶で慰謝料請求をする方法としては次の方法があります。

①示談

まず,内容証明や電話等により慰謝料を請求し,それをもとに交渉を行います。そして,示談は,当事者双方の話し合いで解決する方法をいい,相手が合意する場合には,一定の額を請求することができます。

 

②調停申立,訴訟提起

内容証明郵便を送付しても反応がない場合や交渉がうまくいかない場合は,裁判所に対し調停と申し立てたり,訴訟を提起する方法があります。

調停とは,裁判官と調停委員が関与して,当事者双方の主張を聞いて合意を行う制度をいいます。

訴訟とは,当事者双方が主張や証拠を提出し,最終的に判決により,判断がされるという制度です。もっとも,裁判手続中に和解が成立し事件が終わる場合もあります。

 

3 男性側からの立場で、女性側から慰謝料を請求された場合の対処法

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男性側からの立場で、女性側から慰謝料を請求された場合の対処法

(1)本当に妊娠しているのかを確認する

まず,女性側の中には,そもそも妊娠すらしていないのに,妊娠したなどと嘘をついて,慰謝料を請求してくるような場合もあります。
男性と女性の交際期間が長かったり,知り合ったきっかけが友人の紹介だったりして、男性と女性と間で関係性がしっかりできているケースであれば,このような嘘をつくことはあまりないでしょう。

しかしながら,例えば,出会い系サイトやSNSなどで簡単に知り合った相手の中には,初めから,慰謝料を請求するために,妊娠を捏造することもありえます。
その場合には,エコー写真を送り付けてくることもありますが,エコー写真もネット上で拾ってきたものかもしれませんので,直ちに信用することは得策ではありません。

したがって,女性側から妊娠したと打ち明けられた場合には,妊娠検査薬だけでなく,産婦人科に一緒に付き添うなどして,妊娠したことが事実であるかどうか確認された方がよいでしょう。

 

(2)自分の子供であるかを確認する

女性側が,自分以外の男性と性交渉をしている可能性がある場合には,自身の子供ではない可能性があります。
簡単な方法としては,出産予定日から10月10日遡ってみたり,自身が女性と性交渉をした日から起算して,妊娠何週目との産婦人科の診断が,合致しているかどうかを確認してみましょう。

ただし,これらの方法も確実なものではありません。
そこで,DNA鑑定を用いる方法もあります。
しかしながら,DNA鑑定まですると,費用がかかることや女性側の協力も必要となることから,中絶の慰謝料請求の場合には,あまり用いられる方法ではないと思われます。

 

(3)男性側は責任を取って,慰謝料や中絶費用を支払わなければならないのか?

既に述べたように,性交渉に合意があるのであれば,妊娠および中絶は双方に責任があるといえますから,慰謝料の支払い義務はありません。
他方で,中絶費用も原則として折半なので,半分以上負担する必要もありません。

しかしながら,女性側の請求の場面で見たような事情がある場合には,慰謝料の支払義務を負う場合があります。
この手の事案で多いのが,「結婚を前提にして交際し性交渉したが,実は既にほかの女性と結婚しており,そのことを隠して中絶させたような場合」です。

ただ,このような事案であっても,そもそも結婚の約束をしていたかどうかも問題になりますし,女性側が男性側が既婚者であるかどうかについて関心を払っていなかった,などの事情がある場合には,慰謝料請求が認められなかったり,認められたとしてもその金額は少額になることもあります。

男性側としても,女性側から請求されたお金が,中絶費用の半分程度であるのであれば,ご自身も責任をもって少なくとも半額については支払った方がよいですし,中絶費用全額を払うことで女性側が納得してそれ以上の請求をしないような場合には,女性側の精神的肉体的負担も大きいことに配慮して,支払ってしまってもよいと思われます。

ただし,女性側も,中絶によって肉体的精神的に疲弊しており,精神的に不安定となっているため,男性側がいくら女性側を気遣って応対したとしても,女性側は全く納得をせずに,ひたすら男性側を罵倒をし続け,高額な慰謝料を請求している事案もまま見られます。

そのような場合に,男性側も気持ちが億劫になって,高額な慰謝料などの支払いに合意してしまう場合があります。合意してしまえば,それを覆すことは極めて困難になります。

そこで,そうなる前に,まずは,その請求が適正なものであるのかどうかについて弁護士にご相談された方がよいでしょう。

 

4 慰謝料請求権及び中絶費用請求権の消滅時効

(1)慰謝料請求権の消滅時効

不法行為に基づく慰謝料請求権は,損害と加害者を知った時から3年で時効消滅します(民法724条)。そして,強制性交(レイプ)等により相手が不明である場合を除き,通常,中絶をする女性は,手術の時点で損害の発生と相手方を知っていると考えられます。そのため,中絶を理由に慰謝料請求をする場合,中絶手術から3年以内に請求しない限り,原則として慰謝料請求は認められません。

慰謝料請求の時効については,下記の記事で詳しく説明しています。

関連記事:慰謝料請求の時効とは

 

(2)中絶費用請求権の消滅時効

上述の通り,中絶費用については当事者で折半することとなりますので,中絶費用を全額支払った場合には,他方当事者に対して,支払った費用の半額を不当利得として返還請求ができます(民法703条)。もっとも,不当利得返還請求権は,債権者が権利を行使することができることを知った日から5年で時効消滅します(民法166条)。そのため,女性が中絶費用の半額の支払いを請求する場合には,中絶費用を支払った日から5年以内に請求する必要があります。

 

5 おわりに

中絶は,原則として同意に基づくものであるので慰謝料請求はできませんが,一定の場合に慰謝料請求ができます。また,慰謝料以外にも様々な費用を請求できる場合もあります。
法律事務所ロイヤーズ・ハイでは,男女問題に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。男女関係についてお悩みのある方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

このコラムの監修者

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