セックスレスを理由とした離婚慰謝料請求の相場と手順・証拠の残し方
婚姻関係にある当事者は、協議の離婚(民法763条参照)をする他にも、裁判上の離婚(770条)の請求によって離婚をすることができます。
裁判上の離婚の離婚原因には、
- ・配偶者に不貞行為があったとき
- ・悪意に遺棄されたとき
- ・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ・婚姻を継続い難い重大な事由があるとき
が挙げられます。
また、裁判上の離婚原因が存在していたときには、「権利」又は「法律上保護される利益」が侵害していたといえ、不法行為に基づく損害賠償請求(同法709条)をすることができます。
例えば、夫(妻)が不倫相手と不貞行為をした場合には、精神的苦痛を被った被害者である妻(夫)は、770条1号で観念されている夫婦の「貞操義務」に反していることを理由に損害賠償請求を提起することができます。
夫婦間がセックスレスになっている場合にも、770条に該当するとして慰謝料請求をすることができます。
というのも、770条1項5号に規定されている「重大な事由」には、性的不能や性的異常を原因としたセックスレスが該当し、セックスレスによってセックスを拒まれた当事者が、婚姻を継続できないほどの精神的苦痛を被ったと考えることが可能であるからです。
以下、セックスレスを理由とした慰謝料請求について具体的に説明します。
目次
1 セックスレスによる離婚慰謝料の相場は?
不法行為の損害賠償請求は、被害者と加害者の公平を金銭賠償で図る制度であるため、被害者がどれだけの精神的、肉体的苦痛を被ったかによって慰謝料の額が算定されます。
一般的に、セックスレスによる慰謝料の相場は、100万円~200万円で落ち着くとされていますが、セックスレスによる慰謝料は、「相手の生活状況」や「子供の人数及び年齢」、さらには「婚姻期間の長さ」によって変動することがありますので、自分がどのような状況に置かれているのかを確認する必要があります。
また、判例上は、1年以上性行為がない場合においてセックスレスを認定しているため、1年未満性行為をしていない場合には、慰謝料請求は認められない恐れがあります。
2 セックスレスによる離婚慰謝料請求の手順
それでは、被害者はどのような手順で慰謝料を請求すればいいのでしょうか。
身近な手段から公的な手段まで説明します。
(1)まずは当事者間の協議に委ねる
当事者双方が協議上の離婚をする際には、離婚に併せて慰謝料の請求をすることが考えられます。
また、協議上で決められたことは、書面にすることが望まれます。
というのも、書面にしておかないと、時間が経過したときに当事者が主張したことと主張していないことの水掛け論となる恐れが少なくないからです。
また、当事者双方で公証役場へと行き、公証人立会のもと執行受諾文言付きの公正証書を作成する手段もあります。
公正証書を作成すると、慰謝料が仮に支払われなかったときには強制執行を用いて慰謝料をもらうことが出来るため、裁判上の判決と同様の成果を得ることができます。
(2)離婚調停を申し立てる
慰謝料の問題だけでなく、離婚をするか否かについても議論が残っている場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てるのも一手段です。
離婚調停では、離婚原因があるか否かにとどまらず、離婚をした際の慰謝料についても決めることができます。
また、離婚調停は、当事者双方の意見を聞き、家庭裁判所が結論を出すところであるため、当事者がお互い顔を合わせることなく結論を出すことができるのも、この手段のメリットといえるでしょう。
ただ、離婚調停は裁判所によるため、解決までにおよそ6ヶ月の時間がかかると言われています。
(3)訴訟を提起する
家庭裁判所による離婚調停によっても結論が出なかった場合には、当事者が裁判所へ訴訟を提起することとなります。
また、離婚については協議が成立したが、慰謝料については協議がまとまらなかった場合においても、管轄の簡易裁判所ないし地方裁判所に訴えを提起することができます。
なお、被告に対して請求する額が140万円以下であれば簡易裁判所へ、140万円を超える場合には地方裁判所へと訴えを提起するのが通常です。
3 より高額な離婚慰謝料を獲得するための方法
まず、セックスレスによる慰謝料請求では、「故意又は過失」によって他人の権利や利益を侵害するため、セックス自体はできるのにセックスをしない夫婦が前提にはなります。
では、より高額な慰謝料を獲得するためにはどのような方法があるのでしょうか。
以下説明します。
(1)裁判上で有利な主張をする
まずは、収入や資産の差を主張することが考えられます。
被害者の方が収入がない場合、又は著しく低い場合においては、請求をした際に慰謝料が高額になることがあります。
被害者が本来から配偶者の給与を基に生活をしていたような状況では、離婚した後に今までと同様の生活をすることが困難になってしまうからです。
また、セックスレスの長さについて主張するのも一つの手段でしょう。
不法行為に基づく損害賠償請求の金額は、被害者が被った精神的ないし肉体的損害によって算定されるためセックスを拒否された期間が長ければ長いほど、精神的ダメージも大きいと評価できるからです。
セックスレスの原因が配偶者の不貞行為であった場合には、その事情も主張した方が良いでしょう。
配偶者が不貞行為は夫婦間の貞操義務に違反し、より精神的苦痛を被ったとして高額になることが考えられるからです。
(2)セックスレスであることの証拠を残しておく
セックスレスを理由とした慰謝料請求が認められるためには、婚姻関係が継続できないと認められるほどの「重大な事由」にあたる必要があります。
よって、重大な事由にあたると推認できるほどの証拠を残しておくと、裁判を有利に進めることができます。
では、セックスレスの証拠としてはどのようなものが挙げられるでしょうか。
一番に考えられるものは、夫婦関係における日記やメモです。
例えば、被害者が毎晩夜に日記を書き、どの時期から性行為をしていないのか記録をつけておいたり、配偶者の夜の就寝時間についてのメモを残しておくと、セックスレスを推認できる証拠となります。
また、セックスレスが認められたとして、自身の給与明細と配偶者の給与明細を証拠とすることによって、当事者の経済的地位が明らかとなり、慰謝料額が増額されるおそれがあります。
4 まとめ
以上より、セックスレスを理由として慰謝料請求はすることができます。
また、夫婦間の収入格差や婚姻期間の長短、更にはセックスレスの原因等によって慰謝料額が変動するおそれがあるため、慰謝料請求をする際には、弁護士に相談されることをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。