有責配偶者からの離婚請求は拒否できる?請求された場合の対処法
「夫から突然、別れてほしいと言われました。話を聞いてみると、数年前から不倫していて、その不倫相手と一緒になりたいという身勝手な内容でした。たしかに、夫の不倫をした当時、私は慣れない育児や近所付き合いによって余裕がなくなり、夫にあたってしまったり、自分の容姿に気をつかったりすることもなくなっていきました。また、夫婦間でのスキンシップもなくなっていきました。私たち夫婦には、小学生の子どもがいます。自分が変わり、夫と話し合えば、まだなんとかやり直せるんじゃないかと思っています。離婚はしたくありません。どうすればよいでしょうか。」
離婚原因をつくりだした有責配偶者から離婚を請求されるケースは少なくありません。
「もうこんなやつの顔も見たくない!」と離婚に応じる方もいると思います。
一方で、幼い子供がいたり、自分にも反省点があるなどと考えた場合、離婚したくないと考えるかたもいるでしょう。
本コラムでは、有責配偶者からの離婚請求は拒否できるのかについて解説します。
1 有責配偶者とは?
有責配偶者とは、民法で定められた離婚の原因をつくりだした配偶者のことをいいます。
民法770条では、以下の離婚の原因(法定離婚事由)が定められています。
・不貞行為
・悪意の遺棄
・生死が3年以上明らかでない
・強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
・その他婚姻を継続しがたい重大な理由
(1)不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の人と自らの意思に基づいて肉体関係をもつことをいいます。
不貞行為があったことを証明するためには、配偶者が自分以外の人と肉体関係をもったことがわかる証拠が必要となってきます。
具体的な証拠や集め方については、下記のコラムをご参照ください。
参照コラム:【完全版】旦那の浮気の証拠がつかめない?不倫の証拠14選を紹介
(2)悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、民法752条に定められた夫婦間の義務である「同居義務」、「協力義務」、「扶助義務」のいずれかに反する場合をいいます。
たとえば、正当な理由なく一方的に家を出ていってしまった場合です。
具体的な内容や証拠については、下記のコラムをご参照ください。
参照:悪意の遺棄で離婚したい!慰謝料相場と増額させる方法を徹底解説
(3)生死が3年以上明らかでない
生死が3年以上明らかでないとは、最後に生存を確認できたときから生死不明な状態が3年間継続した場合をいいます。
生死不明の理由は問いません。
(4)強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
回復の見込みがない強度の精神病とは、夫婦が相互に協力する義務が果たせず、長期の治療によっても回復が見込めない精神病をいいます。
たとえば、重度の統合失調症や躁うつ病などが挙げられます。
他方で、アルコール中毒や薬物中毒は「精神病」と認められません。
なお、回復の見込みがない強度の精神病にかかっても、ただちに離婚が認められるわけではありません。
強度の精神病の場合、病気となった配偶者の今後の療養や生活について、ある程度の前途が見込めなければなりません。
そのため、裁判によって「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」という理由で離婚が認められることは多くありません。
(5)その他婚姻を継続しがたい重大な理由
その他婚姻を継続しがたい重大な理由とは、夫婦が共同生活を送ることができなくなり、回復の見込みがない場合をいいます。
たとえば、配偶者のDV(暴力やモラハラ)やギャンブルなどによる金銭問題、犯罪行為による服役などがあげられます。
また、別居期間が長期にわたるなど夫婦関係の修復が望めないと判断されたときも離婚が認められる可能性があります。
2 有責配偶者からの離婚請求を拒否する方法
(1)原則:有責配偶者からの離婚請求は認められない
離婚したくないのであれば、「離婚しません」とはっきり伝えることです。
原則として、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
有責配偶者から離婚請求された場合は、率直にあなたがどうしたいのか伝えましょう。
(2)例外:有責配偶者からの離婚請求が認められる条件
すでに別居期間が長期間におよんでおり、子供が経済的に自立している場合には、例外的に、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。
【最大判昭和62年9月2日判決】
|
つまり、
・別居期間が夫婦の年齢と同居期間の対比において相当の長期間におよび、
・夫婦の間に未成熟の子が存在しない場合には、
・相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、
有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。
それぞれの要件について、詳しく解説します。
①別居期間が夫婦の年齢と同居期間の対比において相当の長期間
上記すべての要件をあわせて離婚請求の判断がなされるため、相当の長期間についての明確な基準はありません。
だいたいの目安としては、10年とされます。
一般に離婚が認められる別居期間が3~5年であることと比べると相当長いため、有責配偶者からの離婚請求は認められにくいことが分かります。
別居期間が10年未満の場合であっても、夫婦の年齢や同居期間との対比や具体的な事情から、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性もあります。
②夫婦の間に未成熟の子が存在しない
未成熟の子とは、経済的に自立していない子をいいます。
成人しているかどうかは関係ありません。
たとえば、子どもが20歳であっても、大学生であって経済的に自立していない場合、未成熟の子といえます。
これに対し、子どもが17歳であっても、プロのスポーツ選手で経済的に自立しているような場合には、未成熟の子とはいえません。
③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない
これは、苛酷(かこく)条項とも呼ばれます。
たとえば、離婚を拒否している配偶者に収入がなかったりすると有責配偶者からの離婚請求は認められにくくなります。
また、離婚を拒否している配偶者が関係修復のために努力していると認められる場合には、有責配偶者からの離婚請求は認められにくくなります。
1つの事情で特段の事情が判断されるわけではなく、様々な事情をふまえたうえで総合的に判断されますので注意してください。
3 有責配偶者に対して慰謝料請求したい場合
離婚を受け入れる、拒否する、いずれにせよ離婚の原因は有責配偶者にあるわけですから、精神的な苦痛をお受けになると思います
たとえば、配偶者が不貞行為をしていた場合や配偶者に悪意で遺棄された場合です。
このような場合は、有責配偶者に対して慰謝料を請求することできます。
離婚をする、しないに関係なく請求できます。
不貞行為の場合は、不貞行為の相手にも慰謝料を請求することができます。
もっとも、慰謝料請求は相手が認める場合をのぞいては、調停や裁判といった手続きが必要となる場合があります。
この場合には証拠が必要となるため、不貞行為や悪意の遺棄についての証拠を集めるようにしてください。
詳しくは、下記コラムをご参照ください。
参照記事:【完全版】旦那の浮気の証拠がつかめない?不倫の証拠14選を紹介
参照記事:悪意の遺棄で離婚したい!慰謝料相場と増額させる方法を徹底解説
4 まとめ
今回は、有責配偶者からの離婚請求について解説しました。
原則として、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
有責配偶者からの離婚請求が認められるのは、上記で説明した例外的な場合です。
離婚したくないのであれば、はっきり「NO!」と伝えましょう。
もっとも、離婚しない場合は結婚生活が続くことになります。
あなたの伝え方や対応次第では、今後の結婚生活がうまくいかない可能性もあります。
もし、どうすればいいか分からず不安な様でしたら、お一人でお悩みになるのではなく、一度弁護士に法律相談をすることをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。