養育費を払わないで逃げられた!未払いの養育費を回収する新しい方法
養育費を求める権利は、離婚後に子を監護する親がもう一方の親に対し、必要な費用の分担を求める権利です。
養育費とは、子どもの監護や教育に必要な費用をいいます。
そのため、養育費を求める権利は、子どもの権利ともいえます。
離婚時、あるいは離婚後に養育費を取り決めた場合、養育費を請求する権利が発生します。
一方で、養育費を支払う側は、取り決めた内容に従って養育費を支払う義務が生じます。
しかしながら、支払義務があるにもかかわらず支払わない親がいるのが現実です。
厚生労働省の統計によると、現在も養育費を受けていると答えたのは、およそ4世帯に1世帯のみという結果でした。
参照:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告|厚生労働省
未払いの養育費は、放置しておくと時効が成立し、消滅してしまうかもしれません。
今回は、そんな未払いの養育費をどのようにして回収するかにつき、詳しく解説します。
目次
1 未払いの養育費を回収する手続きと流れについて
未払いの養育費を回収する主な手続きは以下になります。
(1)督促する
(2)催告する
(3)調停を申し立てる
(4)裁判を起こす
(5)履行勧告を申し出る、履行命令を申し立てる
(6)強制執行(差押え)を申し立てる
(1)督促(とくそく)する
督促状という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
督促とは、未払い養育費の支払いを単に促すことをいいます。
たとえば、書面に限らずメールやLINEなどで「未払いの養育費を支払ってください。」と伝えることも督促にあたります。
相手が単に振り込むのを忘れていたなどの場合には、これで回収できる可能性があります。
(2)催告する
催告とは、裁判外で、養育費の支払いを強く促すことです。
督促は単に促していたのに対し、催告は督促よりも厳しく、法的措置をとることの一歩手前として行われます。
たとえば、内容証明郵便で「支払われない場合は法的措置を取る」といった内容で支払いを強く促すことです。
つまり、法的措置をとる一歩前の最終通告といえます。
催告は、内容証明郵便による必要はありませんが、のちに争いとなった場合に証拠となるため、内容証明郵便によるのが一般的です。
内容証明郵便による催告によって、相手に養育費の支払いを心理的に促すことができますし、時効を一時的にストップさせること(時効の完成猶予)も可能です。
(3)調停を申し立てる
養育費の取決めが裁判所の手続きや公正証書によるものではない場合、督促や催告が無視されたとしても、まずは調停を申し立てて話し合いで解決することが望めます。
調停とは、家庭裁判所において、調停委員による仲介のもと、当事者間の話し合いによって解決するという手続きになります。
話合いによって、養育費を取り決めたり、養育費の変更をしたりすることができます。
たとえば、養育費を取り決めた当時から事情が変わり、相手の収入が減少したため相手が支払えなくなったという場合には、養育費の減額を取り決めることができます。
月々の支払は減りますが、結果として養育費が回収できるようになるかもしれません。
しかし、合意にいたらず調停が不成立となると、自動的に審判となり、裁判官が審判で判断することとなります。
(4)裁判を起こす
養育費の取決めが裁判所の手続きや公正証書によるものではない場合、強制執行するために裁判を起こすということも考えられます。
裁判において勝訴し、債務名義を手に入れることができれば、強制執行が可能となるでしょう。
しかし、裁判で養育費の請求が認められるには、養育費の取決めがあったとされる証拠が必要となります。
そのため、口頭による養育費の取決めの場合には、請求が認められない可能性があります。
一方で、離婚協議書のような書面が証拠としてあれば、請求が認められる可能性があります。
裁判では、時間や費用・労力がかかってしまいますが、証拠がそろっていれば、養育費の回収につながります。
(5)履行勧告を申し出る、履行命令を申し立てる
調停や審判といった裁判所の手続で養育費が取り決められた場合、取り決めをおこなった家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができます。
また、養育費の請求は金銭の支払を目的とするため、家庭裁判所に履行命令を申し立てることもできます。
履行勧告とは。家庭裁判所を通じて、養育費の支払いを説得・勧告するという手続きです。
履行命令とは、家庭裁判所を通じて、養育費の支払いを命じてもらう手続きです。
この履行命令に正当な理由なく従わない場合、10万円以下の過料の制裁に処させることがあります。
これらの手続きに費用はかかりません。
しかし、強制力がないため、未払の養育費を確実に回収することはできません。
なお、過料の制裁は行政罰であるため、刑罰と異なり前科はつきません。
(6)強制執行(差押え)を申し立てる
①強制執行の申立て
裁判所の手続きや公正証書で養育費が取り決められた場合、強制執行をすることが可能となります。
強制執行には、いくつかの種類がありますが、養育費の支払いをうけるために主に用いられるのは債権執行です。
債権執行とは、申立てにより地方裁判所が債権差押命令を出し、相手が有している債権(給料や預貯金)を差し押さえて、そこから強制的に支払いをうけるという手続です。
つまり、相手の勤務先や金融機関から養育費を回収することが望めるのです。
強制執行の申立ては、申立書などの必要書類を債務者の住所地を管轄する地方裁判所に提出することによって申し立てます。
必要書類の提出は、郵送でも可能です。
②必要書類
強制執行の申立てに必要な書類は、以下のものとなります。
・申立書(表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録) ・養育費や婚姻費用を定めた債務名義(正本) ・債務名義正本の送達証明書 ・申立手数料(収入印紙) ・郵便切手 ・第三債務者(法人)の資格証明書(商業登記事項証明書または代表者事項証明書) ・債権者または債務者に住所・氏名に変更がある場合の必要書類 |
債務名義とは、強制執行によって実現される予定のある権利法律関係が公的に示された文書をいいます。
債務名義の例としては、以下のものがあります。
・確定判決 ・仮執行宣言付判決 ・仮執行宣言付支払督促 ・和解調書 ・調停調書 ・審判書 ・公正証書 |
③差し押さえる際の注意点
(ア)相手に関する情報の収集
申立書には、差押債権目録において、差し押さえるべき財産を記載する必要があります。
相手の勤務先や金融機関が分かっている場合は、給料や預貯金を差し押さえることが可能となります。
しかし、相手の勤務先や金融機関(銀行名や支店名)が分からない場合は、差し押さえることができません。
そこで、相手に関する情報を収集しなければなりません。
相手の財産情報を収集する方法については、財産開示請求や第三者からの情報取得手続きがあります。
また、弁護士に依頼して弁護士照会制度を利用する方法もあります。
令和2年4月1日に施行された民事執行法により、新しく認められた内容もありますので、後記「2 未払いの養育費を回収する新しい方法について」にて詳しく解説します。
(イ)差し押さえることができる財産の範囲
養育費の未払いが原因で、給料を差し押さえる場合、手取り金額によって差し押さえることができる金額が異なってきます。
以下の金額は、差押えの対象とはなりません。
・給料の手取り金額の2分の1
・手取り金額の2分の1が33万円を超える場合、33万円
(差押禁止債権)
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たとえば、手取り金額が40万円の場合は、その半分の20万円を差し押さえることができます。
一方で、手取り金額が80万円の場合、その半分は40万円であり33万円を超えますので、33万円を超える部分の47万円を差し押さえることができます。
(ウ)時効
未払いの養育費は、放っておくと時効にかかります。
たとえば、公正証書で養育費を取り決めた場合、未払いの養育費の時効は、請求できることを知った日から5年となります。
詳しくは、下記コラムをご参照ください。
参照コラム:養育費請求権は5年で消滅?時効を阻止する方法とは
2 未払いの養育費を回収する新しい方法について
(1)過去の問題点
ア.預貯金の差押えについて
預貯金は、相手の銀行口座と支店名を特定した場合、差し押さえることができます。
特定できない場合、口座を開設している銀行と支店名をある程度予想をして、預金の差押えを申し立てることになってしまいます。
この場合、全く回収できないという可能性があります。
また、「弁護士照会制度」を利用して、銀行本店に対し、全店照会を行うこともできましたが、裁判所の手続きではない公正証書による取り決めの場合は、回答しない金融機関が多くありました。
イ.給料の差押えについて
相手の勤め先が分かれば給料支払者が分かるため、給料を差し押さえることができます。
しかし、転職されると給料支払者が分からなくなります。
勤め先が分かったとしても、給料支払者と勤め先が異なる派遣社員である場合があります。
このような場合には、養育費を回収することが困難でした。
ウ.財産開示請求手続について
相手方に対して持っている財産の情報を開示するよう求める手続きです。
財産開示手続の申立てが行われ、実施の要件が満たされると、財産開示実施決定がなされます。
財産開示実施決定が確定すると、裁判所は財産開示期日と財産目録提出期限を指定し、申立人と相手方に通知書を送達して告知します。
相手が素直に従ってくれる場合には、相手の預貯金やその他の財産が分かります。
しかし、相手方が無視した場合、30万円の過料という行政罰が課されるのみでした。
行政罰であるため、前科はつきません。
そのため、実効性に乏しい手続きとなっていました。
エ.間接強制・履行命令について
支払わないときに制裁金を課す間接強制や履行命令は、養育費回収の実効性があるものとはいえませんでした。
そもそも制裁金は、国が徴収するものであり、養育費の回収に直接つながりません。
こういった事情から、裁判所も制裁には消極的でありました。
(2)未払いの養育費を回収する新しい方法(改正ポイント)
改正された民事執行法が、令和2年4月1日に施行されました。
養育費の関係で重要な改正のポイントは、以下の3つです。
・公正証書によって財産開示手続きが利用可能となった
・財産開示手続の開示拒否・虚偽の制裁が強化された
・第三者からの情報取得手続が新設された
ア.公正証書による財産開示手続きが利用可能となった(民事執行法197条1項)
改正前は、執行認諾文言付公正証書で取り決めをした場合、差し押さえる財産は自分で見つけなければなりませんでした。
改正によって、執行認諾文言付公正証書で財産開示手続きが利用できるようになりました。
後述する財産開示手続を無視した場合の制裁強化とあいまって、公正証書が強力となりました。
イ.財産開示手続の開示拒否・虚偽の制裁が強化された(民事執行法213条1項5号および6号)
相手が無視した場合の制裁は、30万円の過料という行政罰でした。
改正によって、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という刑罰になりました。
無視した場合、前科がつくことになります。
そのため、無視することや虚偽の内容を陳述することが安易にできなくなりました。
これにより、財産開示手続の問題点が改善されたといえます。
ウ.第三者からの情報取得手続が新設された
(ア)銀行(金融機関)の本店に対し、情報提供を命ずる手続き(民事執行法207条)
銀行本店に照会することで、口座や残高などの預金情報などについての情報提供を命じることができるようになりました。
これにより、預貯金の差押えに関する問題点が改善されたといえます。
(イ)市町村や日本年金機構・共済組合に対し、給料支払者の情報提供を命ずる手続き(民事執行法206条)
市町村は、住民税を徴収しており、給料支払者を把握しています。
日本年金機構や共済組合は、厚生年金保険料を徴収しているとき、給料支払者を把握しています。
そこで、給料支払者の情報の提供が得られるよう、市町村や日本年金機構・共済組合に対し、給料支払者の情報提供を命じることができるようになりました。
これにより、給料の差押えに関する問題点が改善されたといえます。
なお、この手続きを行うにあたっては、財産開示手続を先にしなければなりません。
(ウ)登記所に対し、相手方の不動産の情報提供を命ずる手続き(民事執行法205条)
登記所は、不動産に関する情報を有しています。
そこで、相手方がもっている土地や建物の情報が得られるよう、登記所に対し、相手方の不動産の情報提供を命じることができるようになりました。
これにより、相手が働いておらず、預貯金がない場合であっても養育費を回収できるかもしれません。
なお、この手続きを行うにあたっては、財産開示手続を先にしなければなりません。
(3)改正後の影響
改正されてからまだ日は浅いため、これからの動向が注目されます。
しかし、財産開示手続の開示拒否・虚偽に対する制裁が強化されたことで、財産の開示を無視することに対する心理的抵抗は間違いなく生じるといえるでしょう。
また、第三者の情報取得手続によって、相手の勤務先や預貯金が見つけやすくなり、差し押さえるできる可能性が以前より高くなりました。
財産開示手続で相手が嘘をついたとしても、第三者の情報取得手続によって嘘がバレる可能性もあります。
財産開示手続の実施決定を無視したり、嘘をついたりすることは間違いなく減るでしょう。
そのため、養育費回収の実効性は強化されたといえます。
3 未払いの養育費の時効について
いくら未払いの養育費が回収しやすくなったといっても、時効が成立していては意味がありません。
養育費には時効がある点に注意しましょう。
養育費の時効は、取り決めた内容によって異なります。
詳しくは、下記コラムをご参照ください。
参照コラム:養育費請求権は5年で消滅?時効を阻止する方法とは
4 まとめ
現状、養育費の取り決めがない場合は、養育費を求めることはできません。
そのため、取り決めがない場合は、まず養育費の取り決めをしましょう。
養育費を取り決めたからといって、支払ってもらえなければ意味がありません。
養育費を請求する権利は、今後の子どもの人生にも関わる大切な権利です。
支払ってもらえない場合は、本コラムであげた回収方法を参考に、きちんと回収するようにしましょう。
養育費には時効があるため、その点についても注意してください。
もしどのように対応したらよいのか不安な様でしたら、一度弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイには、養育費の請求および回収に関する豊富な経験と知識を有する弁護士が多く所属しています。
お一人でお悩みになるのではなく、一度、当事務所にご相談下さい。誠心誠意ご対応させていただきます。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。