妻の不倫相手は“同性”だった!離婚や慰謝料請求はできる?
「私は34歳の公務員です。妻と小学生の子供が1人います。妻は家のことだけではなく、子供が学校に行っている間、パートとして家計を手助けしてくれており、家族3人で幸せに暮らしていました。ところがつい先日、とんでもないものを見てしまったのです。子供が部活の遠征中で、私が外出予定の日だったのですが、私が忘れ物を取りに家に帰ると、妻の部屋からなにやら変な声がしたのです。私が妻の部屋に入ると、妻が裸で、女性と抱き合ていたのです。
とっさに私は、行為中の現場の写真を撮り、録音をしながら妻を問い詰めました。すると『もうあなたや男の人は性的な対象とは思えなくて、でも女の人とならそういう行為をしたいと思ってて…」などと言いだしたのです。私としては、妻が女性と不倫していたと感じました。しかし、同性での不倫というのはあまり聞いたことがなく、こういうときでも慰謝料や離婚の請求はできるのか知りたいです。」
奥様の不倫相手が女性となりますと、非常に驚かれたかと思います。不倫相手が同性というのはあまりみない事例ですので、今回はこの点にフォーカスして解説したいと思います。
1 妻の不倫相手が同性だった場合、不貞行為に当たるのか
(1)そもそも不貞行為とは
民法770条1項1号には、離婚事由として、「配偶者に不貞な行為があったとき」と定めています。「不貞な行為」とは、最高裁判所の言葉を借りると、「配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」(最判昭和48年11月15日・民集27巻10号1313頁)をいいます。少し後の最高裁判例では、性的関係について、「配偶者と第三者が肉体関係を持った場合」と表現されております(最判平成8年3月26日・民集50巻4号993頁)。
肉体関係とは、性的な交渉のことであり、性器の挿入を伴う行為はもちろん、裸で抱き合ったり、お互いに陰部を触りあう行為等も含まれると考えていいでしょう。反対に、直接肌が触れ合わない行為や、触れているとしても単に手をつなぐ程度の行為であれば、肉体関係・性的関係と評価することは難しいでしょう。
当時の最高裁判所裁判官がどこまで意識をしていたのかは定かではありませんが、少なくとも、文言上、不貞相手を異性に限定するような言い回しはしておりません。したがって、たとえ不倫相手が同性であったとしても、不貞行為が成立することはあると考えられます。
2 妻と同性の不倫相手に慰謝料の請求や、妻との離婚はできるのか
結論としては、不倫相手が同性だったとしても、不貞行為の成立しないことはなく、不貞行為がある場合には、慰謝料の請求や、妻に対する離婚の請求が可能と考えられます。
本筋とは離れますが、解説の補足の意味も込めて、本記事で紹介させていただきます。不貞行為とは肉体関係であるような説明を先ほど行いましたが、近年の裁判例を見渡してみると、肉体関係とは評価できないレベルでも、不貞の慰謝料を認めたものが存在しております。
3 妻の不倫相手が同性の場合の注意点
実際の事件においては、不貞が事実だとしても、それだけでは、必ずしも慰謝料の請求や離婚が認められるとは限りません。相手が不貞などしていないとしらばっくれて、慰謝料や離婚に応じない場合があり、このようなケースは(残念なことに)少なくはないのです。このような場合に、強制的に慰謝料を払わせたり、離婚を成立させるためには、裁判を起こす必要があります。ただ、裁判となれば、裁判官に不貞の事実があったことを認めてもらう必要があり、そのためには、証拠が必要です。証拠が大事であることは、不倫相手が異性の場合でも、もっといえば、不倫に限らず、どんな事件でも当てはまる事項です。ただ、不倫事件で、不倫相手が同性の場合、特有の問題があります。
統計的には、同性愛者・両性愛者は少数派であると言われています。そのため、一般的・確率的な話をすれば、仮に妻が不倫をしているとしても、その相手が女性である可能性は低いということになります。そのため、不倫相手が男性の場合と比較すると、妻の反論の幅が広く、それゆえ、証拠の収集に注意が必要です。
どういうことかといいますと、例えば、妻がとある男性とラブホテルに入っていく写真を入手したとしますと、ほぼ間違いなく不貞が認められます。妻が、泊まるところが他になかったとか、料金が安かったからなどと述べ、ただの友達であり深い意味はないなどと主張しても、ほとんど意味を成しません。
では、妻が、とある女性とラブホテルに入っていく写真の場合はどうでしょうか。この場合に、妻が、同じような反論をした場合には、反論が認められる可能性もあるように思います。どうしても、人間は統計的な数字に弱いもので、同性同士での性的な行為はしないはずだという先入観が付きまとってしまうためです。
そこで、プラスアルファの証拠として、例えば、妻と相手の女性が恋愛関係にあること、同性愛者(両性愛者)であることを示す資料(メールやラインなどのSNSのやりとり)や、妻や相手の女性からの自白が必要になるかと思われます。
4 まとめ
不倫相手が同性だった場合、法的な責任の有無という意味では大きな差は生じません。ただし、相手がしらばっくれた場合に、裁判で相手に責任を取らせるための準備(証拠集め)が非常に困難な事件となります。
とはいえ、相手サイドも、不貞がばれたらどうしようと不安になっているはずであり、任意の交渉で、慰謝料等の請求に応じてくれることもあるかと思います。このような交渉を行うことも、弁護士の役目の一つですので、同じような悩みをお持ちの方は、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。