離婚協議書か公正証書どちらを選ぶべき?書き方完全ガイド
離婚の種類は、大きく分けて協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3種類があります。
そのうち、協議離婚の割合は、令和2年において88.3%でした。
協議離婚は、夫婦が離婚条件などを話し合って決め、離婚届を役所に提出して離婚するという手続きです。
協議離婚で離婚する理由としては、「早く離婚したいから」とか「お金がかからないから」、「納得して離婚したいから」などがあげられます。
しかし、慰謝料や養育費などを口約束だけで決めてしまった場合、後になって相手が約束を守らず争いとなるケースが少なくありません。
そんな時、離婚協議書を作成しておくと、そのような争いを防ぐことができるかもしれません。
また、離婚協議書を公正証書にすれば、訴訟を経ずに強制執行の手続きが可能となる場合もあります。
今回は、離婚協議書や公正証書とは何なのか、どちらを選ぶべきなのか、また、離婚協議書の書き方や内容などについてもご紹介します。
1 離婚協議書と公正証書の役割
(1)離婚協議書とは
離婚する際に、話し合って決めた約束事を記した書面のことです。
離婚協議書は、協議離婚する際に、必ず作成する必要はありません。
しかし、話し合いによって決めた慰謝料や養育費が支払われない場合、相手に「そんなのは決めていないし、もう関係ない」と言われれば、せっかく取り決めた内容の請求が難しくなります。
そこで、取り決めた内容を書面によって残しておくことで、そのようなトラブルを防ぐことができます。
離婚協議書を作成するタイミングとしては、役所に離婚届けを提出する前をお勧めします。
とにかく離婚したいという気持ちから離婚を先にしてしまうと、相手が話し合いに応じなくなる可能性があるためです。
離婚協議書の書き方や内容については、下記「2 離婚協議書の書き方と必要な内容」にてお伝えします。
(2)公正証書とは
公正証書とは、公証役場において、取り決めた内容を公証人が聴き取り、これを書面にした公文書のことです。
公証人は、元々裁判官や検察官などの経験を積んだ法律の専門家であり、公平・中立な立場から法的に有効な書面を作成してくれます。
作成された公正証書は、公証役場に保管されるため偽造されるおそれがなく、紛失する心配もありません。
すでに当事者で作成した離婚協議書を公正証書とすることも可能です。
離婚以外にも、遺言書の作成や大事な契約書の作成などで利用されます。
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
2 離婚協議書か公正証書どちらを選ぶべきか
(1)公正証書にするメリットとデメリット
離婚協議書を作成したとしても、公正証書にする必要まであるかというと、そうでない場合もあります。
離婚協議書を公正証書にするメリットとデメリットを理解して、判断しましょう。
メリットとデメリットは、以下の通りです。
ア.公正証書にするメリット
①偽造や紛失のおそれがない ②高い証拠力をもつ ③強制執行がスムーズになる ④財産開示手続が利用できるようになる ⑤第三者からの情報取得手続を利用できる |
①偽造や紛失のおそれがない
離婚協議書は、同じ内容のものを2部用意して、お互いに1部ずつ保管しておく必要があります。
失くしてしまった場合には、もう1度作成するか、元配偶者にコピーさせてもらう必要がでてきます。
しかし、取り決めた内容が相手に不利なものであった場合、相手が応じないというリスクがあります。
一方で、公証証書としていた場合、失くしてしまっても再発行してもらうことも可能です。
また、公正証書は公証役場で保管されているため、偽造の心配もありません。
②高い証拠力をもつ
離婚協議書を作成しても、様式や内容次第では効力が認められない場合があります。
効力が認められないのでは、作成した意味がありません。
公正証書としていた場合には、法律の専門家である公証人が作成するため信頼性が高く、高い証拠力をもつことになります。
③強制執行がスムーズになる
強制執行認諾文言のある公正証書は、相手が慰謝料や養育費を支払ない場合に、ただちに強制執行を申し立てることが可能となります。
裁判所に強制執行を申し立てるには、「債務名義」と呼ばれる文書が必要です。
通常、「債務名義」を手に入れるには、裁判を提起し、裁判所から勝訴判決を下してもらう必要があります。
公正証書において「強制執行の認諾文言」が記載されている場合、公正証書が債務名義となり、裁判することなく強制執行が可能となるのです。
強制執行の認諾文言とは、債務の返済ができない場合に、ただちに強制執行に服する旨の記載です。
(債務名義) 第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 (略) 五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。) (略) |
④財産開示手続が利用できるようになる
財産開示手続とは、相手方(債務者)の財産が分からない場合に、財産を開示させる手続きです。
令和2年4月1日から、公正証書でも財産開示手続を申し立てることができるようになりました(民事執行法197条1項)。
裁判所に申立てを行い、裁判所が指定した期日に相手を呼び出し、財産の情報を述べさせる手続きになります。
仮に、相手が虚偽の内容を述べたり、無視したりする場合、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という刑事罰が科されることなります(民事執行法213条1項5号および6号)。
⑤第三者からの情報取得手続を利用できる
財産開示手続が実施された後であれば、銀行本店に照会することで、口座や残高などの預金情報などについての情報提供を命じることができます(民事執行法207条)。
また、給料支払者の情報の提供が得られるよう、市町村や日本年金機構・共済組合に対し、給料支払者の情報提供を命じることもできます(民事執行法206条)。
イ.公正証書にするデメリット
①費用がかかる ②時間や手間がかかる |
①費用がかかる
離婚協議書は、当事者の合意によって作成される文書であるため、費用をかけずに作成することも可能です。
しかし、離婚協議書を公正証書にする場合、どうしても作成するための手数料がかかってきます。
手数料は数万程度になるのが一般的ですが、取り決め内容によって異なってきます。
手数料については、日本公証人連合会のサイトをご参照ください。
②時間や手間かかる
離婚協議書は、当事者のみで作成できますし、話し合いによって一方が作成したものを他方が同意し、署名押印によって完成させることも可能です。
一方、公正証書の場合は、前もって決められた時間に公証役場へ2人でいく必要がありますし、記載する内容の修正を求められることもあるため、どうしても時間や手間がかかってしまいます。
(2)どのような場合に公正証書を作成すべきか
慰謝料や養育費など、お金に関する取り決めをする場合には、公正証書を作成すべきです。
慰謝料や養育費は、離婚後に支払われなくなることが少なくありません。
離婚すれば、お互いに新たな人生を歩み出すことになります。新たなパートナーを見つけたり、仕事を辞めなければならなくなったり、病気になってしまったりと様々な理由で経済状況が変化します。
離婚に際して取り決めた内容を公正証書として残しておけば、金銭トラブルを回避することが可能になるでしょう。
仮に、支払いが滞った場合であっても、前述した強制執行認諾文言が付された公正証書があれば強制執行も可能となります。
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3 離婚協議書の書き方と必要な内容
離婚協議書は当事者の合意によって定まる契約といえますので、一度作成した場合、原則として双方が合意しなければ撤回できません。
また、法的に効果が生じない内容を定めても意味がありません。
下記の内容を参考にしながら、慎重に作成するようにしてください。
(1)離婚協議書の書き方と注意点
離婚協議書に決まり決まった書き方はありません。
内容は、当事者で話し合ったうえで、自由に定めることができます。
名称についても、「離婚協議書」や「協議離婚書」、「合意書」といったように、自由に決めることができます。
ただし、当事者で決めればどのような内容でもいいというわけではありません。
「離婚の慰謝料は1億円とする。」などと法外な額の慰謝料を取り決めることは、公序良俗に反して無効となりますし、「○○は、二度と結婚しないこと約束する。」といった内容を定めることは、相手の権利を不当に侵害するものとして無効です。
また、離婚協議書で慰謝料や養育費を定めたからと言って、その支払いが保証されるものでない点にも注意しましょう。
離婚協議書を作成する前に、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
(2)離婚協議書に必要な内容
離婚協議書にどのような内容を盛り込むべきかについては、夫婦の事情によって異なります。
財産分与をどうするのか、離婚の原因に基づく慰謝料はあるのか、親権はどうするのか、養育費は月々いくらでどのように支払うのかなど様々な事情があります。
インターネット上には、離婚協議書のひな形やサンプルがたくさん見かけられますが、そのまま使うことはお勧めしません。
それらを参考にしつつも、ご自身の実情に合った離婚協議書を作成するようにしましょう。
以下は、離婚協議書に必要な主な内容になります。
①離婚に合意した旨 ②財産分与について ③年金分割について ④慰謝料について ⑤親権者・監護権者の指定及び面会交流について ⑥養育費の支払いについて ⑦清算条項 ⑧公正証書にする旨 |
(3)離婚協議書のサンプル
下記は、あくまで参考としてご覧ください。
4 離婚協議書を公正証書にする方法
離婚協議書を公正証書にする場合、ご自身で公証役場に連絡をとり作成手続をとるか、弁護士などの第三者に依頼することになります。
ご自身で行う場合は、以下のような手続の流れになります。
(1)準備する
まずは、必要なものを準備しましょう。
必要なものは、下記のとおりです。
①本人確認書類(印鑑登録証明書と実印、運転免許証と認印など) ②戸籍謄本 ③不動産に関する書類(登記簿謄本・固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書) ④年金分割のための年金手帳等 ⑤離婚協議書または合意した内容が書かれたメモなど ⑥その他、公証人が指定する書類 |
①の本人確認書類や代理人によって公正証書を作成する場合については、日本公証人連合会のサイトをご参照ください。
(2)公証役場へ申し込む
必要な書類等が準備できたら、公証役場へ連絡し、公正証書の作成を申し込みましょう。
公証役場によって手順が異なるため、まずは事前に手続きする公証役場に確認しましょう。
(3)公証人と面談をする
公正証書の作成を申し込んだら、日程調整を行い、必要な書類を公証役場へ持っていき公証人と面談をすることになります。
面談後、公証人は公証証書の作成準備にとりかかることになります。
この時点では、まだ準備段階ですので夫婦そろっていく必要はありません。
(4)公正証書を取りに行く
公証人と日程調整を行い、作成する日にちを決めます。
当日は、夫婦が2人そろって公証役場へ行き、それぞれが署名押印して公正証書を完成させます。
公正証書が完成したら、公正証書原本の写しである正本や謄本が交付されます。
5 弁護士に依頼する場合のメリット
離婚協議書を作成することや作成した離婚協議書を公正証書にすることは。夫婦である当事者で行うことも可能です。
しかし、弁護士に依頼した場合には、以下のようなメリットがあります。
(1)離婚条件などのアドバイスを受けることができる
公証人は、法律の専門家でありますが、公平・中立な立場から公正証書を作成することが職務です。
法的に有効な書面を作成することは可能ですが、内容について適正であるかどうかのアドバイスをすることはできません。
内容についての適正さを求めるのであれば、弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士であれば、法的に有効な内容の書面を作成できると同時に、内容についてアドバイスをし、適正な内容の離婚協議書を作成することが可能です。
結果として、適正な内容の公正証書を作成することができます。
(2)相手と顔を合わせなくてよい
ご自身で離婚協議書を公正証書とする場合、内容確認と署名押印のため、夫婦そろって公証役場へいく必要があります。
この時、どうしても相手と顔を合わせなくてはなりません。
弁護士に依頼した場合には、弁護士があなたに代わって手続を行うため、相手と顔を合わせずに済みます。
(3)時間と手間がかからない
弁護士に依頼すれば、弁護士があなたに代わって離婚協議書の作成や必要書類の準備、公正証書に関する手続きなどを行います。
それらに要する時間や手間が大きく軽減されるでしょう。
6 まとめ
離婚協議書とは、離婚する際に、話し合って決めた約束事を記した書面のことです。
離婚するにあたって、必ず作成を必要とするわけではありませんが、後々のトラブルを防ぐため作成することをお勧めします。
ご自身で作成する場合には、ひな形やサンプルをそのまま使わず、夫婦の実情に合った取り決め内容を盛り込みましょう。
お金に関する内容を取り決める際には、公正証書を作成すべきです。
公正証書にすることによって偽造や紛失のおそれがなくなり、強制執行認諾文言を付ければ、裁判を経ることなく強制執行が可能になります。
ご自身で公正証書にする手続きを行う場合、どうしても相手と顔を合わせなければいけず、また、時間や手間がかかります。
もし、ご不安な様でしたら、お一人で悩まずに、一度弁護士に相談することをお勧めします。
離婚問題に詳しい弁護士に依頼すれば、離婚協議書の作成から公正証書の作成手続きまで任せることができ、ご自身で協議するよりも有利な条件で離婚できる可能性もあるでしょう。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。