離婚時の親権はどうやって決まるの?具体的な決め方と流れ
協議離婚や調停離婚において、離婚すること自体は合意しているのに、離婚条件でなかなか折り合いがつかいない場合があります。
特に親権は、折り合いがつかない離婚条件の代表例といえるでしょう。
令和3年度の司法統計によれば、親権者の割合は、母親が約9割という結果が出ています。
「親権者の割合に偏りがあるのはなぜなのか。」
「どのようにして離婚時に親権は決まるのか。」
今回は、離婚時の親権の決め方や親権者になれなかった場合の対処法などについて解説します。
目次
1 親権とは
親権は、身上監護権と財産管理権の2つからなります。
親権は、婚姻期間中は夫婦2人の「共同親権」で、子どもが成人(18歳)に達するまで持つことになります。
離婚する場合には、「単独親権」となり、どちらかの親が単独でしか親権を持つことができません。
(1)身上監護権
子どもの身の回りの世話や教育を行う権利です。
以下は、身上監護権の具体的な内容です。
・居所指定権‥子どもの住む場所を指定する権利 ・職業許可権‥子どもが職業に就くことを許可する権利 ・身分上の行為の代理権‥子どもが身分法上の行為を行うにあたっての同意・代理権 |
(2)財産管理権
子どもの財産を管理し、その財産に関する契約などを代理したりする権利です。
たとえば、子の預金通帳を預かったり、子どもの代理人として一人暮らしのアパートの賃貸借契約を結んだりすることができます。
また、子どもが勝手に何かを売買するなどした場合、原則として、親権者はその行為を取り消したり、追認したりすることができます。
(3)親権者と監護権者
通常、親権者が身上監護権と財産管理権を持つことになります。
しかし、父母の一方が親権者として財産管理権だけを持ち、他方が監護権者として身上監護権を持つことも可能です。
ただし、親権と監護権を分けることは、円滑な子どもの教育に支障をきたし、子どもの利益にならない場合もあります。
結果として、単に紛争を先延ばしにした状態となる場合もありますので、慎重に判断してください。
2 離婚時の親権はどうやって決まるのか?具体的な決め方
(1)父母の協議
基本的に、親権は話し合い(協議)によって決まることになります。
協議離婚する場合は、必ず親権者を決めて離婚届に記載しなければなりません。
そのため、父母の話し合いによって親権が決まることがほとんどです。
(離婚又は認知の場合の親権者) 第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。 (略) |
(2)家庭裁判所での調停・審判
協議で親権者が決まらなかった場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて親権者を決めることになります。
調停では、調停委員の仲介のもとで話し合うことになり、原則として、夫婦が顔を合わせなくて済みます。
そのため、冷静な話し合いが期待できるでしょう。
調停委員は、父母の意見を交互に聴いて、公平・中立な立場から解決案を提示してくれます。
それでも親権者が決まらない場合には、調査官が子どもの意見を聴くなどの調査を行い、調査結果を参考にしながら話し合いが進められます。
なお、離婚調停で、離婚の合意はできているものの親権者についてだけ争っているという場合には、父母が裁判所に判断を委ね、裁判所の審判という形で親権者が決められることもあります。
関連記事:協議離婚と調停離婚の違いって何?メリット・デメリットと選ぶポイント
(3)裁判
離婚調停において、調停不成立となってしまった場合には、離婚裁判を起こすことになります。
その場合には、裁判所が当事者の主張や証拠など、様々な判断要素から判決によって親権者が決まることになります。
(離婚又は認知の場合の親権者) 第八百十九条 (略) 2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。 (略) |
3 親権を決めるときの重要な判断要素
協議や調停などの話し合いで親権者が決まらなかった場合には、家庭裁判所による審判や判決で決まることになります。
裁判所が親権者を決めるときに重要視している観点は、「子の利益(子の福祉)」です。
「子の利益(子の福祉)」に影響を与える事情は、重要な判断要素になります。
以下では、判断要素となる代表例を「父母の事情」と「子の事情」に分けてあげています。
(1)父母の事情
ア.主たる監護者はどちらか
子どもの出生から現在に至るまでを総合評価したとき、監護養育を主に担ってきた親を「主たる監護者」と呼びます。
通常、子どもは主たる監護者と最も緊密な愛着関係を築いているものです。
そのため、離婚後も主たる監護者と子どもが共に暮らすことが「子の利益(子の福祉)」に沿うものと判断されることが多いです。
なお、近年まで父親が働き、母親が家で育児にあたるという家庭が典型的であったため、「母性優先」という言葉が使われていました。
しかし、現在では家庭の在り方が多様化しており、「母性優先」という言葉は「主たる監護者」に集約しつつあると考えられています。
イ.監護の実績・継続性があるか
現在の生活環境が大きく変化することは、子どもに不安や混乱を与えかねません。
そのため、これまでの監護実績を踏まえつつも、現状の監護状況を尊重し、その継続性が認められるかは1つの判断要素となります。
ウ.監護する環境は整っているか
離婚後、どのように監護していくかという見通しは、重要な判断要素の1つです。
たとえば、親の就労状況や経済的基盤、補助してくれる人の存在などが挙げられます。
親の仕事が遅くなり、子どもが先に帰宅している時間帯に一緒にいてくれる人がいると、子どもは安心して暮らせるでしょう。
エ.監護開始に違法性がないか
いくら現状の監護を尊重するといっても、監護の開始が違法な行為や連れ去り行為によって開始された場合には、その後の監護実績を重視すべきではないという判断になりやすいです。
自信のことのみを考え、子に与える影響を全く省みない行為をすることは、親権者の適格性が疑われる判断要素となってしまいます。
関連記事:離婚協議中の子の連れ去りは違法?親権争いに与える影響とは
オ.面会交流への寛容さ
子どもにとって両親から愛情を受けることは大切です。
面会交流に協力的であることや積極的あることは、子の利益に沿うといえます。
そのため、別居する親との面会交流に寛容かどうかという点は、重要な判断要素となります。
(2)子の事情
ア.子の意思を尊重する
親権者を決めるにあたっては、子どもの意思(意見)も尊重されます。
近年、親権・監護権に関して、子どもを客体として捉えるのではなく、主体として捉える流れが強くなっています。
実際に、10歳程度以上の子どもであれば、意見の聴取が行われます。
子どもの年齢が高いほど、子どもの意思が重要視される傾向にあります。
イ.兄弟姉妹との関係
一般的に、兄妹姉妹は、離れさせないことが子の利益に沿うと考えられています。
両親が離婚した際、お互いの気持ちがよく分かるのは兄弟姉妹でしょう。
そのため、兄弟姉妹との関係は、親権を決めるにあたっての重要な判断要素となります。
ただし、子どもの意思や両親の経済力によっては、兄弟姉妹が離れることが妥当な結論となる場合もあります。
4 親権者になれなかった場合の対処法
協議離婚であっても裁判離婚であっても、一度決められた親権は両親だけで変更することはできません。
家庭裁判所に親権者変更の調停を申し立てて、裁判所の許可を得なければならないのです。
家庭裁判所では、調査官が子どもと直接話したり、学校訪問や家庭訪問をしたりして生活環境や養育環境などを調査します。
調査結果を踏まえ、裁判官と調停委員が本当に親権者の変更をするべきか検討し、変更をしても問題ない、あるいは変更すべきと判断されれば、親権者の変更が認められることになります。
(離婚又は認知の場合の親権者) 第八百十九条 (略) 6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。 (略) |
親権者の変更の場合においても、判断の基準となるのは、やはり「子の利益(子の福祉)」です。
親権者の変更が認められた事例としては、以下のようなものがあります。
【東京家裁平成26年2月12日決定】 母親が親権者で子ども(当時10歳)と実家で暮らしていましたが、母親の監護がおろそかになっていき、母親の姉らが監護するようになりました。 このような事情から、母親が転居した際、子どもは転居を拒否し実家にとどまり、母親との交流はほぼ途絶えた一方、父親と月1回の面会交流は続いており、子どもの意思は、父親との生活を希望しているという事案でした。 家庭裁判所は、父親への親権変更を認める決定を出しました。 |
【福岡高裁平成27年1月30日判決】 親権者は母親とされていましたが、2人の子どもら(当時5歳、4歳)は、父に養育され安定した生活を送っており、母親は夜間のアルバイトをしていたため、子どもらの入浴や就寝は父親が行っていました。 母親は、子どもらの幼稚園の行事も欠席し(父親が出席)、経済状況も安定しておらず、監護してくれる補助者もいない状況で、父親が親権者の変更を申し立てた事案です。 裁判所は、母親が再就職し、一定の収入が見込まれていたにもかかわらず、親権者の変更を認めました。 |
5 まとめ
今回は、離婚時の親権の決め方や親権者になれなかった場合の対処法について解説しました。
離婚時には、必ず親権者を決めなければなりません。
夫婦の話し合いによって決めることができなかった場合、裁判所の判断によって決まることになります。
その際、重要な観点は「子の利益(子の福祉)」に沿うかどうかです。
確かに、親権はほとんどの場合に母親ですが、状況によっては、父親となる場合もあります。
弁護士であれば、親権に限らず、離婚や慰謝料、養育費の問題まで相談することが可能です。
もし、ご不安な様でしたら、お一人でお悩みにならず、一度弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。