「卒婚」は「離婚」や「別居」と何が違う?卒婚の意味やメリット・デメリットを解説
近年,「卒婚」という言葉を聞くことがあります。
何となく結婚生活から卒業するといったイメージはあるけれども,よく分かっていないという方もいらっしゃるでしょう。
本コラムでは,「離婚はしたくないけれど,今の結婚生活は終わらせたい」,そんな希望を叶える「卒婚」について,離婚や別居との違いやメリット・デメリットなどと共に解説します。
1 「卒婚」とは?
卒婚とは,夫婦が離婚せず,お互い干渉することなく,自由にそれぞれの人生を楽しんで生きていくという新たな夫婦の形態のことです。
卒婚という言葉自体は,2004年に出版された『卒婚のススメ』という本で使用された造語であり,法律用語ではありません。
離婚するわけではないため,法律上は夫婦のままであり,婚姻関係は継続します。
2 「卒婚」は「離婚」や「別居」と何が違うの?
(1)離婚との違い
卒婚は,離婚と似ている点がありますが,実際には以下のような違いがあります。
① 離婚届を提出しない
卒婚は,夫婦が互いに干渉しないことを約束するものであって,役所に離婚届を提出しません。
そのため,戸籍上は夫婦のままです。
離婚の場合は,離婚届を役所に提出し受理されることによって,戸籍が別々になります。
② 相続権はそのまま残る
卒婚しても,法律上は婚姻関係にあるため,相続権はそのままです。
配偶者が死亡すると,配偶者の資産を相続できますし,自分が死亡した場合には,自分の資産が配偶者に相続されます。
配偶者に財産を相続させたくない場合には,遺言書を作成しておきましょう。
ただし,最低限の相続分(遺留分)を奪うことはできません。
一方で,離婚の場合,お互いの相続権はなくなります。
③ 配偶者以外の人と肉体関係を持てば、不貞行為となる可能性がある
卒婚しても,配偶者以外の者と肉体関係をもった場合には,不貞行為に該当する可能性があります。
そのため,実際に請求されるかは別にしても,配偶者の慰謝料請求権が発生する場合があります。
一方で,離婚した場合には,離婚後であれば,元配偶者以外の者と肉体関係をもったとしても,不貞行為に該当することはありません。
(2)別居との違い
離婚届けを提出せず,婚姻関係を継続するという点では共通します。
しかし,卒婚の場合は,一緒に暮らしているか別々に暮らしているか関係ありません。
一方で,別居は,婚姻関係を継続しながらも必ず夫婦が別々に暮らすという点で,卒婚とは異なります。
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3 「卒婚」をする理由とは?
離婚や別居を選択せず,卒婚を選択する理由は夫婦によって様々です。
たとえば,以下のような理由が挙げられます。
・夫婦がそれぞれお互いの自由を尊重し合えるようになった ・子どもが自立し,それぞれ自分達の時間を大切にしたいと思うようになった ・夫婦の一方または双方が定年退職をむかえ,新たな人生を歩みたいと思うようになった ・お互いが相手に合わせることに疲れてしまった ・夫婦それぞれが経済的に自立し,求めるライフスタイルが異なるようになった |
卒婚を選択する夫婦の多くは,夫婦関係が破綻しておらず,お互いに尊重し合って自由を認め合えるといった特徴があるといえるでしょう。
4 「卒婚」をするメリット
(1)お互い自由に生活できる (2)世間体を維持できる (3)面倒な手続きが不要 (4)関係を戻しやすい |
(1)お互い自由に生活できる
卒婚によって,相手に合わせる必要もなく,必要以上の干渉を受けることもなくなります。
それぞれが自由な生活を送ることができるようになり,精神的に余裕ができるでしょう。
また,お互いを尊重し合うことによって,関係性がより良くなるかもしれません。
(2)世間体を維持できる
卒婚の場合には,親せきの集まりや友人同士の会話,緊急連絡先の記入など,あらゆる場面で世間体を気にしなくて済みます。
(3)面倒な手続きが不要
離婚の場合には,財産分与や年金分割,住民票移動届の提出,国民健康保険の手続き,様々な名義変更や住所変更など,必要な手続きが多くあります。
卒婚であれば,婚姻関係は継続されるため,面倒な手続きは一切不要です。
(4)関係を戻しやすい
いつでも話し合いのみで卒婚をとりやめ,元の状態に戻ることができます。
離婚し,再婚するという手続きを経る必要がないため,関係を戻しやすいといえるでしょう。
5 「卒婚」をするデメリット
(1)新たに自由な恋愛はできない (2)周囲に理解されにくい (3)完全に自由というわけではない (4)離婚につながってしまう |
(1)新たに自由な恋愛はできない
卒婚は,お互い自由に生活できるというメリットがありますが,恋愛に関しては自由とはいえない場合があります。
婚姻関係は継続されるため,不貞行為に該当し,慰謝料を請求される可能性があります。
新たに出会った相手としても,婚姻関係が気になってしまい,恋愛に前向きになれないかもしれません。
(2)周囲に理解されにくい
世間体を維持できるというメリットがありましたが,卒婚であれば周囲から理解が得られるというわけではありません。
そもそも,卒婚という言葉を知らない方もいますし,夫婦関係が良好であることを説明したとしても,結局,夫婦間で問題が生じているという認識で終わる可能性があります。
特に,両親や世代が少し上の人からは理解を得られず,卒婚を反対される可能性もあります。
(3)完全に自由というわけではない
婚姻関係が継続されるため,扶養義務が残ります。
配偶者が生活に困ってしまった場合には,経済的な負担を強いられる可能性があります。
卒婚しても,配偶者と法律上の関係は残るという点で,完全に自由とはいえないでしょう。
(4)離婚につながってしまう
離婚を回避するために「卒婚」を選んだにもかかわらず,結果として,離婚につながるリスクがあります。
裁判で離婚が認められるには,法律で定められた離婚理由が必要であり,その1つに,「婚姻を継続しがたい重大な事由」という離婚理由があります。
「婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められる例としては,長期間の別居やDV(ドメスティックバイオレンス)などが挙げられます。
卒婚をきっかけに別居が始まると,別居が長期間にわたる可能性があります。
結果として,卒婚をきっかけとする長期間の別居により,相手から離婚を請求され,離婚が認められてしまうという事態になってしまうのです。
6 「卒婚」をする手順と注意点
メリット・デメリットを理解したうえで,卒婚すると決めた場合には,以下のような手順で進めます。
(1)条件について話し合う (2)将来について取り決める (3)取り決めた内容を書面にする (4)家族の理解を得る (5)遺言書を作成しておく |
(1)条件について話し合う
たとえば,同居するか別居するか,生活費の分担はどうするか,他の異性との自由な恋愛を認めるのか,親せきの集まりはどうするかなどについて話し合いましょう。
あとでトラブルとならないよう,事前に卒婚の条件について話し合い,具体的な取り決めを行うことをお勧めします。
また,具体的な取り決めを行うことによって,転居先を探したり,家具を揃えたりするなど,新たな生活を始める準備を行うことができるようになります。
(2)将来のことついて取り決める
一方が病気になった場合や,介護が必要になった場合など,将来起こりうる事態の対応について話し合い,取り決めておきましょう。
取り決めておくことによって,自分がどのような準備をしなければいけないかが判断できるようになり,安心して卒婚することが可能となります。
(3)取り決めた内容を書面にする
条件や将来について話し合ったら,取り決めた内容を書面に残しておきましょう。
書面にしておくことによって,後々のトラブルを防ぐことができます。
内容や形式によっては効果が認められない場合もありますので,書面を作成する際には,一度弁護士に相談することをお勧めします。
(4)家族の理解を得る
卒婚するにあたって,家族の理解を得ておくと,家族との関係において,トラブルを回避することができるでしょう。
(5)遺言書を作成しておく
「2(1)離婚との違い」でも述べましたが,卒婚しても,相続権はそのままです。
遺産を配偶者に相続させたくないのであれば,遺言書を作成しておきましょう。
ただし,最低限の相続分(遺留分)を奪うことはできません。
7 まとめ
今回は,「卒婚」について,離婚や別居との違いやメリット・デメリットなどを解説しました。
卒婚とは,夫婦が離婚せず,お互い干渉することなく,自由にそれぞれの人生を楽しんで生きていくという新たな夫婦の形態のことです。
離婚とは異なり,法律上は夫婦のままであり,婚姻関係は継続します。
同居しながら卒婚する場合もあるため,別居とも異なります。
必ずメリットとデメリットを理解したうえで,卒婚するのか,離婚や別居をするのか判断するようにしましょう。
卒婚すると決めた場合には,ご紹介した手順を参考に手続きを進めて下さい。
卒婚を選ぶべきか,条件をどうしたらよいか,書面の作成はどうすればいいのか,ご不安になる点があるかもしれません。
弁護士であれば,状況に応じた適切なアドバイスが可能です。
もし,どうしたらいいか分からないという場合には,一度弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。