面会交流を拒否されたら損害賠償を請求できる?条件と対処法
面会交流について合意したにもかかわらず,面会交流が行われない場合,子どもが一方の親からの愛情を受けることができなくなるため,子どもの利益を害することになります。
子どもにとって,父母から愛情を受けることは重要であり,たとえ父母が離婚したとしても,そのことに変わりはありません。
一方,同居していない親にとって,子どもと交流を図り,子どもとの関係性を維持する機会は,基本的に面会交流しかありません。
そのため,同居していない親にとっても,面会交流は非常に重要であるといえます。
仮に,面会交流が行われないとなると,精神的に耐えがたい苦痛を受け,面会交流に協力しない相手方に対して何らかの対応を求めたくもなるでしょう。
今回は,面会交流を拒否された場合に,損害賠償請求はできるのか,できる場合の条件やその他の対処法などについて解説します。
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目次
1 面会交流を拒否された場合に請求できる損害賠償とは?
相手と面会交流を合意したにもかかわらず,面会交流が拒否された場合には,損害賠償請求が認められる場合があります。
この損害賠償請求権は,慰謝料請求権であり,不法行為に基づく損害賠償請求権の一種です。
慰謝料とは,不法行為によって受けた精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。
面会交流を拒否された場合には,面会交流を拒否されたことで受けた精神的苦痛に対する賠償金を,慰謝料として請求することになります。
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2 面会交流を拒否された場合に損害賠償を請求するための条件とは?
面会交流を拒否されたからといって,ただちに損害賠償請求が認められるわけではありません。
損害賠償を請求するためには,以下の条件を満たす必要があります。
(1)面会交流について具体的な取り決めがある (2)面会交流の拒否が悪質で違法性が認められる |
(1)面会交流について具体的な取り決めがある
面会交流権が侵害されたといえるには,前提として,面会交流をする権利があると認められる必要があります。
面会交流をする権利は,両親であれば当然に有する権利とまではいえず,父母の話し合いや審判によって,面会交流について具体的な取り決めが行われて初めて認められる権利です。
そのため,面会交流を拒否されたことを理由に損害賠償請求をするためには,面会交流について具体的な取り決めがあることを必要とするのです。
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(2)面会交流の拒否が悪質で違法性が認められる
不法行為には,悪質なものからそうでないものまで様々です,
悪質な場合には,精神的苦痛そのものが認められやすく,また,受ける精神的苦痛も大きくなるといえるでしょう。
しかし,不法行為が悪質とはいえない場合には,受けた精神的苦痛が小さい,あるいは,慰謝料請求が認められるほどの精神的苦痛が認められない場合があります。
例えば,「娘をあなたに会わせたくない」という理由で拒否された場合と,「今日は娘に熱があって外出できない」という理由で拒否された場合とを比較すると,前者の方が納得できず,怒りや悲しみといった感情が込み上げてくるかと思います。
このように,不法行為といっても,その程度によって受ける精神的苦痛の大きさは異なってくるため,そもそも慰謝料請求が認められない場合があるのです。
具体的に,面会交流の拒否が悪質で違法性が認められる場合とは,以下のような場合です。
① 相手が正当な理由なく面会交流を拒否する ② 長期間にわたり何度も面会交流を拒否する |
① 相手が正当な理由なく面会交流を拒否する
相手が正当な理由なく面会交流を拒否する場合には,悪質で違法性が認められるため,損害賠償請求が認められる可能性があります。
面会交流は,父母の協力のもとで,子どもの利益のために行われます。
法律上も,面会交流については,「子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と定められています。
そのため,面会交流の拒否について,正当な理由があるかについては,子どもの利益の観点から判断されることになります。
例えば,過去に,面会交流を求める親が子どもに対して虐待を加えていた場合や,面会交流のルールを守らず,子ども連れ去るなどして,子どもにストレスを与えていたといった場合には,面会交流の拒否に正当な理由があると認められる可能性があるでしょう。
また,子どもが会うことを嫌がっていたり,面会交流の当日に体調を崩してしまった場合も,無理に面会交流を認めることは子どもの健康を害するおそれがあることから,面会交流の拒否に正当な理由が認められる可能性があります。
しかし,このような正当な理由なく,相手が単に会わせたくないからといった理由で面会交流を拒否する場合には,損害賠償請求が認められる可能性があります。
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② 長期間にわたり何度も面会交流を拒否する
相手が,一度に限らず,長期にわたって何度も面会交流を拒否するといった場合には,悪質で違法性があるといえ,損害賠償請求が認められる可能性があります。
複数回,長期にわたって面会交流が正当な理由なく拒否される場合には,それだけ受ける精神的苦痛も大きくなるでしょう。
「もう会わせてくれないんじゃないか」,「このまま一生会えないんじゃないか」といった不安や焦りが生じるかと思います。
もちろん,たった一度であっても,面会交流が正当な理由なく拒否されると,精神的苦痛を受けることでしょう。
しかし,一度や一時的な拒否の場合には,基本的に,慰謝料を請求することが難しくなります。
3 面会交流の拒否に対して損害賠償請求が認められた事例
面会交流の拒否に対して,損害賠償請求が認められた事例をご紹介します。
(1)熊本地方裁判所 平成28年12月27日判決
① 事案の概要
父親が,子どもとの面会交流が妨害されたとして,母親とその再婚相手に対して,損害賠償を請求した事案です。
調停にて,面会交流についての具体的な取り決めがされていましたが,母親とその再婚相手は,面会交流を拒否し,父親は子どもが7歳から10歳になるまで面会交流ができませんでした。
この間,父親は何度も面会交流についての連絡をしたり,履行勧告を申し立て,多数の候補日を提示していたにもかかわらず,面会交流の実施日が確定することはありませんでした。
なお,母親側は面会交流を拒否した理由について,再婚相手と子どもが父子関係を確立する必要性や,母親の出産後の身体的・精神的負担があったことを主張していました。
② 裁判所の判断
ア.面会交流権の侵害について
まず,裁判所は,2回にわたる調停によって,面会交流の具体的な取り決めがされていたとして,母親側は「面会交流を実施するために日時等の詳細について誠実に協議すべき義務を負う」としました。
そして,父親から多数の候補日が提示されていたにもかかわらず,面会交流の実施日を確定させることなく,再婚相手を通して父親にメールしたのを最後に,母親が,父親からの連絡や多数回の履行勧告に応答しなかったこと,本件訴訟が提起された後に面会交流が再開されるまで,こうした態度を継続させたことは,「面会交流を実施するための協議を実質的に拒否したものというべき」であるとし,誠実協議義務に違反すると述べました。
結果として,誠実協議義務に反した母親の行為は,父親の「面会交流権を侵害する不法行為に当たる」と判断しました。
イ.面会交流を拒否する正当な理由の有無について
裁判所は,母親側が主張する面会交流を拒否した理由につき,面会交流を実施するための協議自体を拒否することを何ら正当化するものではないこと,そもそも父親に理由を伝えていないこと,また,子どもが父親に会いたいと素直に述べていることもあり,「面会交流拒否の正当理由にはならない」と判断しました。
ウ.結論
裁判所は,上で述べた内容と,母親の再婚相手の事情を踏まえ,母親に対し70万円,母親の再婚相手に対し30万円の慰謝料を認めました。
ここでは,母親のみならず,母親の再婚相手に対しも慰謝料を認めましたことが特徴的です。
(2)東京地方裁判所 令和2年11月2日判決
① 事案の概要
父親が,面会交流権の行使を不当に妨害されたとして,母親に対して損害賠償を請求した事案です。
審判で面会交流を取り決めてから,本件訴訟提起時にいたるまでの約6年間,長女が3歳から9歳へと成長する間,一度も面会交流されませんでした。
面会交流がされない間,父親は履行勧告を行い,間接強制も申立て,高等裁判所によって,面秋交流の不履行1回につき3万円という決定も下されていました。
ところが,母親は,日程調整できなかったこと,長女の心身の安定を考慮して面会交流を控えていたことを理由に,面会交流を実施せず,また,高等裁判所による間接強制の決定にも全く従うことはありませんでした。
② 裁判所の判断
ア.面会交流権の侵害について
裁判所は,母親は審判によって面会交流させる義務を負ったものの,多数回の履行勧告や高裁決定があるにもかかわらず面会交流に応じなかったものとして,「面会交流権を侵害する不法行為に当たる」と判断しました。
イ.面会交流権を拒否する正当な理由の有無について
裁判所は,母親が面会交流の実施日に学校行事があったことを理由として,面会交流を拒否した点につき,父親が提案した代替日の調整に応じなかったことから,「不法行為責任は左右されない」と判断しました。
また,長女の心身の安定を理由に拒否した点については,審判によって長女の心理的な葛藤を踏まえて第三者機関を入れるなどの条件を定めたものと考えらえるため,「面会交流を拒絶することを正当化するものとはいえない」と判断しました。。
さらに,父親が婚姻費用や養育費を支払っておらず,母親が父親に対して強制執行を申し立てることになっているしても,そのことが「面会交流させるべき義務を消滅させるものではない」としています。
ウ.結論
裁判所は,上記内容を踏まえて,母親に対する120万円の慰謝料を認めました。
4 面会交流を拒否された際の対処法とは?
ここまで,面会交流を拒否された場合の損害賠償請求について述べてきました。
しかし,面会交流を拒否された場合の対処法は,損害賠償請求だけではありません。
損害賠償請求以外の対処法としては,履行勧告と間接強制が挙げられます。
(1)履行勧告の申出をする
調停や審判で,面会交流についての取り決めがされたにもかかわらず,相手が取り決めを守らず,面会交流を実施しない場合,裁判所に履行勧告の申出をすることが考えられます。
履行勧告とは,家庭裁判所の調停や審判などで取り決められた金銭の支払いや面会交流等の義務を守らない人に対して,家庭裁判所が,その義務を履行するように勧告する手続きです。
家庭裁判所に履行勧告の申出をすると,家庭裁判所が相手に調停や審判などで取り決めた内容を守るよう書面などで通知してくれます。
注意点としては,勧告できる内容は,調停,和解条項または審判・判決の主文に記載のあるものに限られます。
また,相手が勧告に応じない場合には,履行を強制することはできません。
(2)間接強制を申し立てる
相手が履行勧告に応じない場合には,家庭裁判所に対して間接強制を申し立てることが考えられます。
間接強制とは,債務を履行しない義務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告(決定)することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な支払いを促すものです。
家庭裁判所に,間接強制を申し立てると,裁判所が債務者に対して審尋という意見を聞く手続きを行い,申立てを認容する決定をする場合には,間接強制の制裁金を課す命令を言い渡すことになります。
例えば,面会交流の不実施1回につき3万円といった制裁金が課される場合があります。
注意点としては,間接強制が認められるためには,面会交流の条件が詳細に定められており,請求内容が特定されていることが必要になります。
そのため,面会交流の条件がちゃんと決まっていない場合には,間接強制はそもそも認められません。
5 面会交流を拒否された際にしてはいけない行動
面会交流を拒否された場合,感情的になってしまい,してはいけない行動をとってしまうことがあります。
例えば,子どもを連れ去ったり,養育費の支払いを止めてしまったりすることです。
しかし,これらの行動をしてはいけません。
(1)子ども連れ去る
相手が交流を拒否しているからといって,相手の許可なく子どもを連れ去った場合,刑法224条が定める未成年者略取罪にあたる可能性があります。
たとえ,親であったとしても罪に問われる可能性があるため,子ども連れ去ってはいけません。
(2)養育費の支払いを止める
面会交流できないと養育費を支払わないといったように,脅すような形で養育費を止めてしまうことがあります。
また,面会交流を拒否され,子どもの成長を見守ることができずに時間が経過すると,親としての自覚や責任感が消え失せてしまい,養育費の支払いを止めるということもあります。
しかし,養育費の支払いは,面会交流の対価ではないため,面会交流がされないからといって,養育費の支払いを止めてよい理由にはなりません。
また,養育費の支払いは,親の子どもに対する扶養義務から認められるものであって,身勝手に養育費の支払いを止める権利はありません。
そのため,面会交流が認められない,親という実感がないといった理由で,養育費の支払いを止めることは認められません。
仮に,養育の支払いを止めた場合には,強制執行により,財産や給与が差し押さえられる可能性があります。
6 まとめ
今回は,面会交流を拒否された場合に,損害賠償を請求するための条件やその他の対処法について解説しました。
調停や審判などで面会交流の取り決めがされた場合には,取り決めに従って面会交流を求めることが可能です。
しかし,相手が正当な理由なく面会交流を拒否する,長期間にわたり何度も面会交流を拒否するといった場合もあるでしょう。
このような場合は,損害賠償請求が認められる可能性があります。
また,損害賠償請求以外にも,履行勧告の申出や間接強制の申立てによって,面会交流の実施を促すことも可能です。
面会交流を拒否されたからといって,決して子どもを連れ去ったり,養育費の支払いを止めたりといった行為をしてはいけません。
もし,面会交流がされず,どうして良いか分からない場合には,一度弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。