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離婚理由の「3年以上の生死不明」とは?具体例と離婚後の支援制度について解説

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離婚理由の「3年以上の生死不明」とは?具体例と離婚後の支援制度について解説

私は,15年前に夫と結婚し,子供が2人おります。ところが,8年ほど前から,夫が家に帰って来ず,一切連絡が取れなくなりました。当初は,夫の居場所を調べていたのですが,消息はつかめませんでした。まだ割り切ることなんてできていませんが,今後の生活のためにも,このまま,形だけの夫婦関係を残していてもいいものなのかなと考え,夫と離婚することを考えています。夫の生死が不明になった場合,離婚ができると聞いたことがあります。私のような場合はどうなのでしょうか。

急にご主人がいなくなってしまうなんて,とても悲しいことだと思います。いつの日か,再会できることを願ってやみませんが,目の前の現実を受け止めざるを得ないときもあるのかもしれません。本記事では,夫が失踪した場合の妻の立場を想定して,法律上,どのような手続が可能なのか,解説をさせていただきます(夫と妻の立場が逆の場合も当てはまります)。あくまでひとつの選択肢として読んでいただければ幸いです。

目次

1 離婚理由の「3年以上の生死不明」とはどういう状況?具体例

離婚理由の「3年以上の生死不明」とはどういう状況?具体例

法律上,配偶者が3年以上生死不明の場合は,離婚ができると定められています(民法770条1項3号)。これの意味合いは,まさに文字通りなのですが,具体的な時点を示すとすれば,最後に音信(会話・便り・お金の振り込み等)があった時点から3年間経った時点となります。

生死が「不明」であることが条件ですので,「生きていることは分かっているが,3年間(以上)居場所が分からない」場合は「3年以上の生死不明」には該当しません。ただし,このような場合,別の理由(悪意の遺棄・その他婚姻を継続し難い重大な事由)で離婚が認められる余地はあるようには思います(本記事の趣旨から外れますので,詳細の解説はここでは割愛いたします)。

3年以上の生死不明という理由で,離婚をするためには,生死が不明であることを証明しなければなりません。不明であること(わからないこと)を証明するというのは,難しそうに思いますが,実際のところは,色々な手段を尽くして調査したが,見つからなかったことを証明することになります。例えば,警察への捜索願・親族,知人,職場への聞き込み等を行い,これでもなお見つからなかった場合には,「生死が不明」であることの証明といえるでしょう。

 

2 「3年以上の生死不明」を理由に離婚する場合の手続きの流れ

「3年以上の生死不明」を理由に離婚する場合の手続きの流れ

3年以上生死が不明の状況ですから,当然話合いは不可能です。そのため,離婚を進めるためには,裁判所関係の手続を行うことが必須です。一般的に,離婚の手続は,離婚調停⇒離婚裁判という順番で行うことが原則で,いきなり離婚の裁判を行うことは通常できません(家事事件手続法257条1項)。

ただし,調停(話合い)を先行させることが事実上無意味・不可能な場合には,最初から裁判を行うことができることがあります(家事事件手続法257条2項ただし書)。今回のようなケースはまさに話合いが事実上不可能なので,最初から裁判手続で進められることは多いように思います。

さて,調停にせよ,裁判にせよ,本来であれば相手(ここでは夫)に書面を送らなければなりませんが,居場所が分からないため直接送ることはできません。このような場合,公示送達という手続を利用することになります。これは,裁判所の掲示板に書類を掲載する等を行うことにより,相手に書面が届けられたとみなす手続です。実際に,掲示板に書面を見に来る人はほぼいないと思われますので,公示送達は,離婚に限らず,行方不明の相手に対し,強引に手続を進めるための法的手段といえます。

夫が何らの対応もしない場合,形だけの裁判が粛々と進められ,離婚が認められることになります。裁判で離婚が認められた場合,判決の確定日(判決日ではありません)から10日以内に,離婚届(夫婦両方の署名や証人不要)を役所に提出し,離婚手続は終了となります。

 

3 失踪宣告手続(民法31条)を利用した婚姻関係の終了

失踪宣告手続(民法31条)を利用した婚姻関係の終了

生死不明の場合,別の手続として,失踪宣告という手続があります。こちらの手続は,7年間生死不明(事故等が原因による生死不明の場合は1年間)の人物がいる場合に,その人物についての失踪宣告の申立を家庭裁判所に行うこととなります。誰でも申立てができるわけではありませんが,配偶者は申立てが可能です。申立てが認められた場合,法律上,夫は死亡したと扱われます。

夫が死亡した場合,婚姻関係(夫婦関係)は当然に終了しますので,失踪宣告が認められた時点で,妻は独身となります。独身になるために,別途手続は必要ありません。

ちなみに,離婚というのは,夫婦両名が生きていることが前提の手続ですので,配偶者の死亡による婚姻関係の終了は,「離婚」とは呼びません。「死別」と表現することになるでしょう。

 

4 3年以上の生死不明を理由に離婚する場合と,失踪宣告制度を利用する場合の比較

⑴ 大まかな区別

3年以上の生死不明の場合が離婚事由とされている趣旨は,「生きているかどうか分からないが,婚姻関係を継続する意味はないと思われるので,離婚を認めよう」というものです。

失踪宣告制度の趣旨は,「生きているかどうかわからないが,このまま権利関係をあやふやにするのもまずいので,法律上は死亡したものと扱おう」というものです。婚姻関係の終了は,その結果にすぎません。

 

⑵ 財産関係

① 3年以上生死不明による離婚の場合

財産分与の請求や,場合によっては慰謝料を請求できます。行方不明の相手からどうやってお金を受け取るのだと思われるかもしれませんが,財産分与の請求ができそうということは,夫の財産がある程度分かっていることも多いと思われ,強制執行等で回収を図れることもあるかと思います。

ただし,あくまで財産分与の請求ができるのは,夫婦の共有財産に限られます。夫に負債があった場合,分与額が少なくなることはありますが,妻が負債を折半して負うことはありません。そして,夫が死亡しているわけではないので,相続は発生しません。

 

② 失踪宣告制度を利用する場合

夫が死亡したと扱われるため,財産分与の請求や慰謝料の請求は不可能となります。その代わり,相続が発生し,夫婦の共有財産に限らず,特有財産も含めた夫の全財産が相続の対象となります。

また,夫婦に子どもがいる場合,子どもにも財産が相続されることになります。ただし,夫に負債があった場合,負債も相続の対象となりますので,財産よりも負債の方が大きい場合,相続放棄を検討することになります。

 

⑶ 氏の関係(婚姻により,夫の姓に変更していた場合を前提)

① 3年以上生死不明による離婚の場合

通常の離婚の場合と同様に,原則として婚姻前の姓に戻ります。婚姻時の姓を引き続き使用したい場合は,家庭裁判所で手続が必要ですが,離婚後3カ月以内という期限が定められています。

 

② 失踪宣告制度を利用する場合

死別により婚姻関係が終了した場合と同様に,原則として,姓はそのままです。婚姻前の姓に戻すためには,家庭裁判所で手続が必要です。こちらに期限はありません。

 

⑷ 事後的に夫の生存が判明した場合

① 3年以上生死不明による離婚の場合

⑴でも触れましたが,3年以上生死不明による離婚手続は,究極的には,夫が生存しているのかどうかは関係なく離婚を認めるものです。したがって,後に夫の生存が判明しても,離婚や離婚に関連する手続に影響を及ぼしません。

妻が再婚をしていたとしても,妻が財産分与で得た元夫の財産を全て消費していたとしても,法的には何ら問題は生じません。

 

② 失踪宣告制度を利用する場合

夫が実は生きており,失踪宣告の取り消しを行った場合,失踪宣告は初めからなかったことになります。ただ,全てが巻き戻されるのというのはあまりに不都合ですので,夫が実は生存していることを知らずにした行為はそのままであり,影響を受けないと定められています(民法32条1項)。

妻が,夫の生存を知ったうえで失踪宣告を行ったとするとと,次のようなことになります。妻が再婚していた場合,(死別が最初からなかったことになるため)元の夫との婚姻関係が復活するため,重婚状態になってしまいます。また,妻が夫の財産を使い込んでいた場合,(相続は最初からなかったことになるため)夫に財産を返還する義務が生じます。

妻が夫の生存を知らずに失踪宣告の申立を行っている場合,理屈上は問題ないのですが,実際に夫がどのように対応するのかはまた別問題であり,争いの可能性自体は残ることになります。

 

5 まとめ

両手続を比較しますと,離婚を優先するのであれば,効果が確定的な,3年以上の生死不明による離婚手続がいいということになります。失踪宣告は,リスキーな部分があるものの,夫の財産関係を全てまとめて清算するというメリットに重きを置くならば,こちらを選択するのもあり得るとは思います。

このコラムの監修者

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