自動車保険の個人賠償責任保険(日常生活弁護士費用等特約)とは?離婚でも使える?
自動車保険等に加入するとき,「個人賠償責任特約」という項目を目にしたことのある方は多いはずです。この特約は,日常生活での事故で負うことになった損害賠償金等を補償してくれる制度です。
離婚する場合,配偶者に対して財産分与や慰謝料を支払ったり,話し合いがまとまらなければ弁護士を入れて調停や訴訟も…という可能性もあります。そのような場合にも,個人賠償責任保険は適用されるのでしょうか。
1 個人賠償責任保険とは?
厳密にいうと,「個人賠償責任保険」という単体の保険は一般的ではありません。通常,火災保険や自動車保険に「特約」として付加されるものです。自動車保険等に加入する際,「個人賠償責任特約」を付けるかどうかを確認されたことがあるはずです。
「個人賠償責任特約を付けるか」と聞かれても,具体的にどのような特約か分からず,「いらない」と答えてしまう方もおられるでしょう。しかし,個人賠償責任特約は,日常生活で誰しもが負い得る損害賠償責任に備えるための特約ですから,付けておくのが無難でしょう。
「個人賠償責任保険」とは,日常生活賠償責任保険と呼ぶ保険会社もあるように,日常生活に密接に関係した特約です。生活の中で他人に怪我を負わせてしまったり,他人の物を壊してしまったりすると,あなたはその人に対して損害を賠償する責任を負うでしょう。これらの賠償金を補償したり,相手との示談交渉を代わって行ってくれるというのが,個人賠償責任特約の内容です。
具体的にはどのようなケースが考えられるでしょうか。
たとえば
- ①スーパーで買い物中,陳列棚にぶつかり商品を落として壊してしまった
- ②鞄をひっかけて,売り物の骨董品を落として割ってしまった
- ③運んでいた荷物を他人の車にぶつけて傷をつけてしまった
- ④犬の散歩中,飼い犬が他人にかみついて怪我をさせてしまった
- ⑤自転車で走行中,歩行者にぶつかり怪我をさせてしまった
など…考えられるケースは数え切れないほど存在します。
このように,個人が日常生活の中で損害賠償責任を負わなければならない状況に直面する可能性はかなり高いのです。また,この特約は加入者本人だけでなく,同居の親族や,別居であっても生計を同じくする親族(一人暮らしをしている大学生の子,等)が負う損害賠償責任についても適用される場合が多いようです。そのため,加入している保険に個人賠償責任特約があるのならば,これを付加しておくのが無難でしょう。
2 個人賠償責任特約が適用されない場合は?
個人が損害賠償責任を負う場合に利用できる個人賠償責任特約ですが,これが適用されないケースも存在します。
まず,この特約は他人の身体や物に損害を生じさせた場合に適用されるものですから,他人の名誉を傷つけた場合等には適用されません。
また,故意によって負う損害賠償責任については,保証の対象外とされるのが一般的です。たとえば,わざと他人の物を壊した場合等がこれに当たります。
更に,「他人」に損害を加えることが必要ですから,同居の親族に怪我を負わせた,同居の親族の物を壊した,という場合は,保証の対象外になります。
3 離婚する場合に個人賠償責任特約は使える?
離婚する場合でも,お金はたくさんかかってしまいます。財産分与も必要ですし,交渉をするために弁護士に依頼すれば弁護士費用もかかってしまいます。この費用についても,個人賠償責任特約の保証の対象なのでしょうか。
これまでお話ししてきたように,この特約は,他人の身体や財産に損害を与えてしまった場合の賠償責任に備えるためのものです。離婚する場合に生じる財産分与や弁護士費用等は,保証の対象には含まれないでしょう。
ただし,離婚する場合に,配偶者から慰謝料の請求をされる場合があります。たとえば,不貞が原因で離婚をする場合,配偶者から不貞によって被った精神的損害に対する慰謝料として,金銭の支払いを求められる場合等です。配偶者に損害を与えているのですから,個人賠償責任特約の出番なのでしょうか?
しかし,既にお話ししたように,この特約は,「他人」に損害を加えた場合に利用できるものです。配偶者は他人ではありませんから,たとえ配偶者に損害を与えていたとしても,個人賠償責任特約を利用できることはないでしょう。
また,不貞によって配偶者に与えた損害は,「故意」による損害だとも言えますから,この観点からも,個人賠償責任特約は利用できないはずです。
4 おわりに
夫婦間の問題に,個人賠償責任保険は利用できません。いくら特約に入っていたからといって,保険会社に「配偶者から慰謝料請求をされたから個人賠償責任特約を使いたい」なんて電話をかけても,「保証対象外です」と門前払いされるのがオチでしょう。このような場合には,弁護士にご相談なさるのが一番の近道です。
だからといって,個人賠償責任特約は日常生活で生じ得る様々な問題に備えるために大切な特約ですから,入らなくていいということにはなりません。ご自身が個人賠償責任特約の対象になっているか不安のある方は,現在加入している保険の保証内容を,再度見直してみるのもありかもしれません。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。