婚姻関係が破綻していないことを示す証拠とは?離婚を回避するためのポイント
「妻から離婚したいと言われました。私は仕事の都合上、5年前から単身赴任しています。仕事が忙しく、距離も遠いことから家には年に2,3回しか帰れていません。単身赴任をする際、家族と一緒に引っ越すことも考えたのですが、話し合ったうえで子どもの教育環境を優先し、家族を残して単身赴任することを決めました。赴任当初は頻繁に連絡をとっていたのですが、月日が経つにつれて連絡をとることも少なくなり、現在は疎遠な状態が続いています。家族がいるから赴任先で頑張ることが出来ました。私は離婚したくないのですが、裁判となった場合、妻からの離婚は認められてしまうのでしょうか。」
目次
1 離婚が認められる5つの条件
離婚には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚があります。
協議や調停で話し合いがまとまらない場合には、最終的に裁判となります。
裁判離婚が認められるには、民法770条で定められた離婚原因のいずれかが満たされる必要があります。
1号 配偶者に不貞な行為があったとき 2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき 3号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき 4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき 5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき |
この中で、5号の「婚姻を継続し難い重大事由があるとき」とは、婚姻関係が破綻している状態であることをいいます。
では、どのような場合に婚姻関係が破綻している状態といえるのでしょうか。
2 婚姻関係が破綻している状態とは
破綻しているとは、回復の見込みがないことをいいます。
つまり、婚姻関係が破綻している状態とは、婚姻関係について回復の見込みがない状態をいいます。
婚姻関係について回復の見込みがない状態かどうかの判断は、個別の事案によって異なってきます。
一切の具体的な事情をふまえて判断されます。
3 婚姻関係が破綻しているかの判断要素
(1)主観的な判断要素
たとえば、夫婦がともに婚姻関係を回復させる意思がない場合、もはや回復の見込みがない状態といえます。
言い換えれば、夫婦が婚姻関係の破綻を認めている場合です。
この場合、離婚は認められるでしょう。
(2)客観的な判断要素
一方で、夫婦のいずれかが婚姻関係の破綻を認めていない場合、ただちに回復の見込みがないとはいえません。
この場合、婚姻関係が破綻しているかどうかの判断は、客観的に判断されることになります。
客観的な判断要素としては、主に以下のような場合があげられます。
①別居期間
まず、別居期間は重要な判断基準となります。
たとえば、すでに別居期間が長期にわたっている場合、婚姻関係が破綻しているとの認定をうける可能性が高くなります。
ただし、単身赴任や長期入院などの正当な理由がある場合、ただちに婚姻関係が破綻していると別居とはいえません。
単身赴任中、家族と頻繁に連絡をとっていたり、休暇の際には会っていたりする場合もあります。
このような離婚を前提とした別居といえない場合、いつから婚姻関係が破綻しているといえる別居が始まったのかがポイントとなります。
もっとも、別居期間が短くても他の客観的な判断要素をふまえて、破綻していると判断される可能性はあります。
なお、家庭内別居については、下記コラムをご参照ください。
参照コラム:家庭内別居は何年続くと離婚できる?財産分与はどうなる?
②DV、モラハラ
配偶者からDVやモラハラを受けている事実が認められる場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
DVとは、ドメスティックバイオレンスの略で、身体的な暴力を受けていることをいいます。
モラハラとは、モラルハラスメントの略で、倫理や道徳に反して、精神的虐待を受けていることをいいます。
③浪費癖、不就労
配偶者の一方の浪費癖が度を越していたり、働くことが可能であるのにもかかわらず働かず婚姻費用を分担したりしないなどの事実が認められる場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
夫婦生活を営むにあたっては、お金が必要です。
過度な浪費癖や不就労がある場合、夫婦生活を維持していくことは難しいでしょう。
そのため、浪費癖や不就労は婚姻関係の破綻の判断要素となります。
④配偶者の親族との不和
典型例は、いわゆる嫁姑問題です。
婚姻関係は、夫婦間だけの人間関係ではありません。
お互いの親族とも付き合いをする必要があります。
親族間との不和から夫婦間の不和へとつながるケースも珍しくありません。
そのため、配偶者の親族との不和が認められる場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
⑤犯罪行為・服役
配偶者が犯罪をおこなった場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
犯罪行為によって逮捕されて服役した場合、経済的も社会的にも苦しくなる場合があります。
また、夫婦間の信頼が損なわれる場合もあるでしょう。
そのため、犯罪行為あるいは服役は婚姻関係の破綻の判断要素となります。
⑥性格の不一致
離婚を請求するにあたって、理由として特に多いのが「性格の不一致」です。
たしかに、婚姻関係の判断要素となりますが、性格や価値観は人によってそれぞれ違うのが当然です。
そのため、「性格の不一致」のみで婚姻関係が破綻していると判断される可能性は低いです。
他の事情とあいまって離婚が認められるケースがほとんどです。
⑦性生活の不一致・異常性
正当な理由がない性交の拒否や異常な性欲が原因で、婚姻関係が破綻していると判断される可能性もあります。
たとえば、一方の配偶者が性交を拒否したり、自己の欲望を満たすために一日に数回も性交を求めたりする場合です。
⑧家庭の放置
配偶者の一方が仕事や趣味を優先し、のめり込んでしまって同居協力扶助義務を果たささない場合には、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
宗教的活動にのめり込んでしまって、家庭を顧みない場合も同様です。
⑨配偶者の宗教的活動
夫婦の一方が他方に対し、事故が信仰している宗教の価値観を過度に相手方に強いたり、宗教的活動を強制したりしている事実が認められる場合、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
単なる価値観の違いと異なる点は、宗教的活動が原因となっているという点です。
宗教は、国家間の紛争原因となったりしますが、家庭内においても例外ではありません。
信仰を配偶者や子どもに強制することは、互いの信頼関係が損なわれたり、子どもの教育に影響を与えたりします。
そのため、配偶者の宗教的活動によって、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
4 婚姻関係が破綻していないことを示す証拠とは
婚姻関係が破綻していることを証明する証拠は、離婚を請求する側が提出する必要があります。
逆に、離婚を請求された側は、請求する側が主張・立証する婚姻関係破綻の具体的な事実に応じて、証拠を提出する必要があります。
つまり、婚姻関係が破綻していない証拠は、離婚を請求する側の主張・立証する婚姻関係破綻の具体的な事実に応じて,離婚を請求された側が適切に反論・提出しなければなりません。
たとえば、相手方から別居が長期間にわたっているとの事実の主張・立証がある場合には、実際には異なる別居期間であることを主張・立証したり、別居期間中も夫婦関係が良好であったことを主張・立証する必要があります。
以下、婚姻関係が破綻していないことを示す証拠の例をあげておきます。
・住民票など夫婦が同居していることを示すもの ・別居期間中、頻繁に会ったり旅行にいったりしていたことが分かるメールやLINE ・働くことができないことを証明する診断書 ・宗教的活動の回数が少なく、寄付金も少額であることを示す記録 など |
5 離婚を回避するためのポイント
裁判上、離婚原因が認められなければ離婚は回避できます。
そして、「婚姻を継続し難い重大事由があるとき」とは、婚姻関係が回復の見込みがない状態をいいます。
つまり、回復の見込みがあれば離婚は認められないのです。
(1)別居しない
可能であれば別居しない、別居させないことです。
別居期間は婚姻関係の破綻を認定するにあたって、重要な判断要素となります。
別居期間が長ければ長いほど、婚姻関係の破綻は認められます。
そのため、離婚を回避したいのであれば、別居しないことが大切になります。
一度別居すれば、互いに生活基盤ができるわけですから元に戻すことは難しくなるでしょう。
仮に、別居せざるをえない状況であっても、諦める必要はありません。
たとえば、別居の原因が単身赴任である場合、期間が長期にわたっているとしても、離婚を前提とした別居とはいえないため回復の見込みはあるといえます。
また、いまだ離婚について話し合っていない場合にも、回復の見込みがあるといえるでしょう。
(2)話し合う
離婚原因が認められない場合、夫婦の一方が離婚したいと考えていても婚姻関係は続くことになります。
この場合、夫婦生活がうまくいくとはいえません。
あらためて数年後に離婚裁判が起こされ、離婚が認められる可能性があります。
そのため、夫婦間で話し合うことが重要となってきます。
そもそも、話し合いができない場合には、回復の見込みがあるとはいえないでしょう。
(3)改善する
話し合ったうえで、相手がどうして離婚したいのかを知り、自分に改善できることがあれば改善するべきです。
たとえば、家庭を放置している場合は、趣味や仕事は程々にして家族と過ごす時間を作りましょう。
浪費癖がある場合は、浪費癖を治しましょう。
とにかく行動しなければ話し合った意味がありません。
6 まとめ
離婚を求められた場合、離婚したくないと思う方もいると思います。
離婚を回避したいのであれば、別居しないことが重要です。
仮に別居が始まり、それが長期におよぶと離婚を回避することは困難となってきます。
もちろん別居期間が全てではありませんが、回復の見込みという観点からも別居期間は非常に重要な判断要素となるのです。
そして、話し合って自分に改善できることがあれば改善しましょう。
もし、離婚を求められて不安な様でしたら、一度弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。