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離婚時の財産分与で退職金は対象になる?もらえる金額の計算方法

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離婚時の財産分与で退職金は対象になる?もらえる金額の計算方法

「私は来年60歳になります。これまで、何度も離婚を考えてきましたが我慢してきました。しかし、60歳を節目に新たな人生を歩んでいこうと思います。夫も受け入れてくれるはずです。そこで、相談したいのが財産分与についてです。私はこれまで専業主婦をしてきたため、これといった財産はありません。夫は昨年退職し、退職金を受け取っています。退職金も財産分与の対象となるのでしょうか。対象となる場合、どれくらいもらえるのでしょうか。」

目次

1 財産分与とは

財産分与とは

離婚した者の一方が他方に対し、財産の分与を請求できる制度です。

(財産分与)

第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

(略)

引用:民法|e-Gov 法令検索

 

財産分与は、①夫婦が婚姻中に協力して形成した財産の公平な分配、②離婚後の生活保障、③離婚の原因を作ったことへの損害賠償の性質があるとされています。

それぞれ、①を清算的財産分与、②を扶養的財産分与、③を慰謝料的財産分与といいます。

特に①の清算的財産分与が基本であり、本コラムでとりあげる退職金についても①の問題となります。

分与の割合は、原則2分の1です。

これは、配偶者の一方が働いているか否かに左右されません。

もっとも、清算的財産分与の基本的な考え方は、婚姻後に形成した財産について、双方の財産形成の寄与度を考慮し、実質的に公平になるように分配するというものです。

そのため、財産形成の寄与度や夫婦間の所得差によって修正される場合があります

 

関連記事:自営業者の配偶者と離婚する場合、財産分与はどうなる?対象となる財産や注意点を解説

 

2 離婚時の財産分与で退職金は対象になるのか

離婚時の財産分与で退職金は対象になるのか

すでに支払われている退職金は、財産分与の対象となる可能性があります。

退職金は「給与の後払い」という性質があり、給与と同様、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産といえるからです。

したがって、すでに支払われている退職金については、基準時に存在すれば、現金あるいは預貯金として、財産分与の対象となります。

将来もらえる予定の退職金については、支給の蓋然性が高いといえる場合に、財産分与の対象となります。

 

どのような場合に蓋然性が高いかは、勤務先の性質や支給根拠の有無等を考慮して判断されます。

就業規則(賃金規定)などに、支給の規定があれば、原則として、財産分与の対象とすることができます。

【東京高裁平10年3月13日判決】

裁判所は、将来もらえる予定の退職金について、「将来支給を受ける退職金であっても、その支給を受ける高度の蓋然性が認められるときには、これを財産分与の対象とすることができるものと解するのが相当である。」と判断しました。

 

最近の実務では、減給や解雇、勤務先の倒産といった将来の不確定要素について、その蓋然性が高い場合を除き考える必要はないとしています。

また、懲戒解雇のように本人の責任によるものは、自らの行為によってその権利を喪失したといえ、考える必要はないとされています。

 

3 離婚時の財産分与で受け取れる退職金の計算方法

離婚時の財産分与で受け取れる退職金の計算方法

(1)すでに支払われている退職金について

すでに支払われた退職金のうち、財産分与の対象になるのは、「勤続期間」と「婚姻期間」が重なる部分です。

分与割合は、原則2分の1です。

【計算式】

退職金額 ×(婚姻期間÷勤続期間)÷ 2 = 財産分与額

【計算例】

退職金額1500万円、婚姻期間20年、勤続期間30年の場合

1500万円 ×(20÷30)÷ 2 = 500万円

財産分与額500万円

婚姻中であっても、婚姻関係の破綻による別居期間がある場合、婚姻期間から差し引かれる点に注意してください。

 

(2)将来もらえる予定の退職金について

将来もらえる予定の退職金の計算方法について、明確な決まりはありません。

代表例として、以下のような2つの方法があります。

①離婚時に分与する方法

②将来の退職金受給時に分与する方法

 

①離婚時に分与する方法について

いまだ退職金が支払われていない段階で、退職金を計算し、財産分与する方法です。

確実に分与を受けることができ、早期に解決できるというメリットがあります。

一方で、未確定の段階であるため、分与額が低くなりがちで、不公平となってしまうデメリットがあります。

【計算式】

離婚時の退職金相当額 ×(婚姻期間÷勤続期間)÷ 2

離婚時の退職金相当額の計算方法については、主に2つがあります。

1つ目は、離婚時に自己都合退職したと仮定して計算する方法です。

【東京家審平22年6月23日】

夫は審判時56歳で、30年以上信用金庫に勤務しており、定年は満60歳(定年に達した日の翌日)という事案で、別居時に自己都合退職した場合の退職金額に同居期間を乗じ、それを別居時までの在職期間で除し、さらに50%の割合を乗じるのが相当であると判断し、「信用金庫から退職金を支給されたときは、399万4379円を支払え」と命じました。

 

2つ目は、定年退職時に受給する予定の退職金から中間利息を引いて計算する方法です。

中間利息について少し説明します。

将来受け取る予定の退職金を「離婚する時点で受け取る」わけですから、いわば先取りするわけです。

先取りしている分の利息が発生し、この利息を中間利息といいます。

つまり、実際に受け取った時点から将来の受け取るべき時点までに発生する利息(中間利息)を引いて、離婚時の退職金相当額を算出するのです。

 

【計算例】定年退職時に受給する予定の退職金から中間利息を引いて計算する方法

定年時の退職金額1500万円、定年退職まで5年、婚姻期間20年、離婚時までの勤続期間30年、法定利率が年3%の場合

1500万円÷(1.03)⁵ 1.15927407

≒1293万9132円(離婚時の退職金相当額)

1293万9132円 ×(20年÷30年)÷ 2 = 431万3044円

財産分与額431万3044円

 

【東京地裁平成11年9月3日判決】

夫が6年後に定年退職するという事案で、退職時までの勤務期間22年7か月のうちの同居期間12年3か月に対する退職金について、中間利息を控除した金額の2分の1として188万円の分与を認めました。

 

②将来の退職金受給時に分与する方法

実際に退職金が支払われてから財産分与する方法です。

公平な金額で分与がされるというメリットがあります。

しかし、退職金の支払いまでに時間を要することや、勤務先が倒産したり、懲戒解雇されたりして、実際に分与されるか不確実となるデメリットがあります。

計算方式については、すでに支払われている退職金の計算方式と同じになります。

すでに支払われた退職金のうち、財産分与の対象になるのは、「勤続期間」と「婚姻期間」が重なる部分であり、分与割合は、原則2分の1です。

【計算式】

退職金額 ×(婚姻期間÷勤続期間)÷ 2 = 財産分与額

婚姻期間については、別居期間が差し引かれる点に注意してください。

【広島高裁平成19年4月17日判決】

同居期間28年、夫の勤続年数は32年という事案で、「将来定年により受給する退職手当額は、…定年まで勤続することを前提として初めて受給できるものである…から現時点において、その存否及び内容が確定しているとは言い難く、…財産分与の対象とすることはできない」として、現時点において自己都合退職した場合の退職金額を財産分与の対象とし、その2分の1(分与割合)の支払いについては、退職金を受給したときとしました。

なお、退職金額が現在の水準よりも低くなる可能性については否定しなかったのですが、そのような流動的な事情は考えないとしています。

4 離婚時の財産分与で退職金を請求できる期間

離婚時の財産分与で退職金を請求できる期間

財産分与の請求は、離婚の時から2年で時効となります。

離婚してから必ず2年以内に話し合いましょう。

話し合いで合意にいたらなければ、調停を申し立てることになります。

関連記事:離婚財産分与の時効について

 

5 退職金の財産分与請求は弁護士にご相談を

退職金の財産分与請求は弁護士にご相談を

離婚した者の一方は他方に対し、財産の分与を請求できます。

退職金は、財産分与の対象となる場合があります。

もっとも、退職金を財産分与の対象とできるか、退職金の計算方法はどのようにすべきかについては、具体的な事案によって異なるため、専門的な知識が必要です。

また、財産分与の請求については、離婚の時から2年で時効となってしまうため、できるだけ早めの対策が必要です。

そのため、財産分与の請求を検討する際には、一度弁護士に相談することをお勧めします。

このコラムの監修者

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