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ダブル不倫(W不倫)の慰謝料請求は?慰謝料の相殺って出来る?

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ポイント説明
ダブル不倫の慰謝料請求は複雑です。2組の夫婦間でのお金のやり取りが問題になるのですから。そのため,「お互い相殺ということで終わらせませんか?」というやり取りをテレビドラマ等で耳にしたことがある方もいるかもしれません。

一般的に「相殺」という言葉はよく聞くものですが,ダブル不倫の場合の「相殺」とはどのようなものを指すのでしょうか。

今回の記事の流れ

1 ダブル不倫とは?

ダブル不倫とは?

(1)ダブル不倫

そもそもダブル不倫とはどういうものか、ご存じでしょうか?

ダブル不倫とは、不倫関係にある男女それぞれに配偶者がいる場合のことをいいます。

例えば、A男とA女が夫婦であり、B男とB女が夫婦である場合に、A男とB女が不倫関係にあった場合にはこのA男とB女の関係はダブル不倫となります。

 

(2)ダブル不倫と通常の不倫の違い

以上の具体例からわかる通り、ダブル不倫の場合には被害者がA女及びB男の2人であり、一般の不倫の場合よりも被害者の数が多くなっています。

したがって、通常の不倫の場合と異なり権利関係が複雑となることから、注意が必要です。

 

関連記事:ダブル不倫の危機

 

 

2 ダブル不倫による慰謝料請求

ダブル不倫による慰謝料請求
ダブル不倫があった場合にも慰謝料請求をすることは可能なのでしょうか?

一般に、不倫による慰謝料請求は民法709条の不法行為要件を充足する場合に認められます。

このことはダブル不倫の場合も変わらないため、同様に民法709条の要件を充足する場合に慰謝料の請求をすることができます。そして、ダブル不倫の被害者は先の具体例でいうとA女とB男となります。

 

では、誰に対して慰謝料請求をすることができるでしょうか。

結論から言えば、不倫の当事者であるA男とB女のいずれに対しても慰謝料請求をすることができます。

しかし、配偶者に対する慰謝料請求は注意が必要です。配偶者と離婚するか否かによって慰謝料請求をすべきか否かは大きく異なります。

それは、B男もダブル不倫の被害者であり、A男に対して慰謝料請求をすることができるからです。

 

 すなわち、B男とB女が離婚しない場合に、A女がB女に対して慰謝料請求をした場合、それを知ったB男はB女を守るため、A男に対して慰謝料請求をすることが考えられます。

この場合には、慰謝料請求をする経済的な意味がありません。

どういうことかというと、A男とA女は夫婦であっても別人格なのでA男に慰謝料請求をされてもA女には関係ないことになりますが、現実的にはA男が慰謝料を払うことになれば夫婦の共有財産からの支出となり、A女も経済的な損害を被るからです。

 

また、A男には黙ってB女に対して慰謝料請求していたような場合、B男からA男に対する慰謝料請求がされることで、A女のB女に対する慰謝料請求が発覚するため、夫婦の不和を招く恐れがあります。

したがって、A女が離婚しない場合は、今後の夫婦生活の維持のため慰謝料請求すべきかどうかについて慎重な判断を要するのです。

関連記事:「W(ダブル)不倫の慰謝料請求」

 

3 ダブル不倫と「相殺」

ダブル不倫と「相殺」

(1)相殺が話題になる理由

ダブル不倫による慰謝料請求の場合、「相殺」が話題にあがります。これはなぜでしょうか。

ダブル不倫では上記の通り、被害者がA女及びB男の2人存在します。そして、それぞれ慰謝料請求の相手方は不倫相手となります。

 

以上のことはお金の流れだけを見れば、A夫婦からB夫婦に慰謝料請求ができ、一方でB夫婦からA夫婦への慰謝料請求が可能、ともいえる状況です。

すなわち、「お互いに請求し合えるのであれば、金銭の支払いは無しにしませんか?」といえる状況にあるということです。これが、ダブル不倫における相殺の発想です。

 

(2)一般的に相殺はできるのか?

では、実際に相殺によって金銭の支払いを無しにすることは可能なのでしょうか。

ズバリ、ダブル不倫において相殺をすることは認められないといえます。

なぜなら、民法509条1号において「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」については相殺することが許されていないからです。

すなわち、不倫慰謝料請求の場合には、「不倫相手が既婚者であることを知っていた」ということが「悪意」に当たるため、ダブル不倫ではほとんどの場合に相殺は許されないということになるでしょう。

もっとも、民法509条1号は任意規定ですので、当事者において相殺することについて合意があれば、相殺することは可能です。

ただし、相殺は「お互いに請求権を持っている」場合に認められるものです。ダブル不倫の慰謝料請求の場合、先ほどの例に従うと、A子からB子への慰謝料請求と、B男からA男への慰謝料請求は、それぞれ別人格から別人格に向けた請求権です。A子とB子がお互いに請求権を持っている、もしくは、B男とA男がお互いに請求権を持っているという場面ではありません。そのため、厳密に言えば相殺が認められる場合ではないでしょう。

 

しかし、A男とA子は夫婦です。夫婦のお財布は共通であることが多いです。これは、B男とB子夫婦にも同様に当てはまることです。A子からB子、B男からA男にそれぞれ慰謝料請求をしたとしても、結局は、A夫婦とB夫婦の間で慰謝料が行ったり来たりするだけですから、お互いが同意すれば、お金のやり取りなしに解決という方法は考えられます。

 

4 ダブル不倫で慰謝料ゼロで合意することはできるだろうか?

ダブル不倫で慰謝料ゼロで合意することはできるだろうか?
では,実際問題として,4者間で「慰謝料ゼロで解決しましょう」という合意は成立するのでしょうか。

「成立することはない」とは言い切れませんが,「ゼロで和解」という結果を期待することは難しいかもしれません。慰謝料は,精神的苦痛に対する補填です。様々な要素を考慮して決定されるのですから,最終的な額は人それぞれ異なります。つまり,A子がB子に請求できる慰謝料額と,B男がA男に請求できる慰謝料額が同じだとは限らないのです。

 

慰謝料額は,婚姻期間の長さ,未成年の子供の有無・人数,資力・社会的地位,不貞への積極性等,様々な要素を考慮して決定されます。
たとえば,A男とB子の不倫において…

  • ①A夫婦は結婚1年目で子供はいない,B夫婦は結婚10年で8歳と5歳の子供がいる。
  • ②A夫婦は資産家で地元の有名人。B夫婦はごく一般的なサラリーマン家庭。
  • ③A男がB子に好意を寄せ,関係を迫った。

 

以上のような経緯があったとします。

結婚生活が長く,未成年の子供のいるB夫婦ですから,B男が不貞によって被るショックは,一般的にA子が被るショックより大きいと考えられます。また,A夫婦は資産家ですから,「もう二度と不貞をしないように」という制裁的な意味でも,A男がB男に支払うべき慰謝料額は,高額になるでしょう。

更に,A男の方が不貞関係に積極的だったようですから,不倫関係についての責任はB子よりA男が重いと考えられ,A男が支払うべき慰謝料額は高額になるかもしれません。

 

以上の点を考慮すると,A男がB男に支払うべき慰謝料額と,B子がA子に支払うべき慰謝料額にはかなり差が生じる可能性があります。それでも当事者同士が「ゼロでもいい」というのであれば問題ありませんが,通常B男は,「自分の被った苦痛はA子なんかよりずっと重い!」と感じるでしょう。そのような状態で,「ゼロ和解」に合意するとは思えません。

また,法的な観点からみると,それぞれの慰謝料額にあまり差が出ないような場合でも,不貞をされた方にとっては,「自分の苦痛はそんなものじゃない!」という気持ちが強いでしょうから,「痛み分けで解決しましょう」と言われても納得できないかもしれません。
ですから,「お互い請求はしない」という同意をとりつけることは,現実問題として難しいケースが多いのです。

関連記事:ダブル不倫(W不倫)の解決方法―問題になるパターンや慰謝料の減額方法まで解説

 

5 おわりに

ダブル不倫の慰謝料請求は,複雑です。相殺的にゼロで解決できるからあっさり解決できそうと思われるかもしれませんが,当事者同士ではそうもいきません。「あなたの苦痛と私の苦痛は違う!」という思いがお互いにありますから,当事者同士の話し合いで解決することはほぼ不可能でしょう。

配偶者の不貞相手に慰謝料請求をしたいけど,不貞相手にも配偶者がいるようだ,という場合,ことは複雑になる可能性が高いです。当事者同士で対峙して話し合いが拗れてしまう前に,専門家である弁護士に相談しましょう。

このコラムの監修者

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