
コラム
ダブル不倫(W不倫)の慰謝料請求は?慰謝料の相殺って出来る?
ダブル不倫の慰謝料請求は複雑です。2組の夫婦間でのお金のやり取りが問題になるのですから。そのため,「お互い相殺ということで終わらせませんか?」というやり取りをテレビドラマ等で耳にしたことがある方もいるかもしれません。
一般的に「相殺」という言葉はよく聞くものですが,ダブル不倫の場合の「相殺」とはどのようなものを指すのでしょうか。
1.ダブル不倫で「相殺」が話題にされるのはなぜ?
A男とA子が夫婦で,B男とB子も夫婦です。A男とB子が不貞行為に及びました。
このような状況を「ダブル不倫」といいます。不貞関係にある男女それぞれに配偶者がいる場合です。この場合,不倫をされた「被害者」は,A子とB男です。
A子はB子に慰謝料請求ができますし,B男はA男に慰謝料請求ができます。
お金の流れだけを見れば,A夫婦からB夫婦に慰謝料請求ができ,一方でB夫婦からA夫婦への慰謝料請求が可能,ともいえる状況です。
“お互いに請求し合えるのであれば,金銭の支払いは無しにしませんか?”
これが,ダブル不倫における相殺の発想です。
2.実際,相殺はできるの?
結論から言うと,お互いに合意できない以上,ダブル不倫で相殺は認められません。
不貞の慰謝料請求は,法的に言えば不法行為に基づく損害賠償請求です。民法上,不法行為に基づく損害賠償を請求されている場合,それと自らの損害賠償請求とを相殺することは許されないとされています。
余談ですが,2020年の4月から施行される改正民法では,「悪意よる不法行為に基づく損害賠償債務」を負っている場合にのみ,相殺が許されないという規定にかわります。もっとも,不貞慰謝料の場合,「不貞相手が既婚者だと知っていた」場合は,「悪意」にあたりますから,相殺が許されないことにかわりはないでしょう。
ただし,お互いに「相殺してもいい」というのであれば,問題なく相殺は可能です。
ただし,相殺は「お互いに請求権を持っている」場合に認められるものです。ダブル不倫の慰謝料請求の場合,先ほどの例に従うと,A子からB子への慰謝料請求と,B男からA男への慰謝料請求は,それぞれ別人格から別人格に向けた請求権です。A子とB子がお互いに請求権を持っている,もしくは,B男とA男がお互いに請求権を持っているという場面ではありません。
そのため,厳密に言えば相殺が認められる場合ではないでしょう。
もっとも,A男とA子は夫婦です。夫婦のお財布は共通でしょう。これは,B男とB子夫婦にも当てはまることです。A子からB子,B男からA男にそれぞれ慰謝料請求をしたとしても,結局は,A夫婦とB夫婦の間で慰謝料が行ったり来たりするだけですから,お互いが同意すれば,お金のやり取りなしに解決,という方法もあり得ます。
3.ダブル不倫で慰謝料ゼロで合意することはできる…?
では,実際問題として,4者間で「慰謝料ゼロで解決しましょう」という合意は成立するのでしょうか。
「成立することはない」とは言い切れませんが,「ゼロで和解」という結果を期待することは難しいかもしれません。慰謝料は,精神的苦痛に対する補填です。様々な要素を考慮して決定されるのですから,最終的な額は人それぞれ異なります。つまり,A子がB子に請求できる慰謝料額と,B男がA男に請求できる慰謝料額が同じだとは限らないのです。
慰謝料額は,婚姻期間の長さ,未成年の子供の有無・人数,資力・社会的地位,不貞への積極性等,様々な要素を考慮して決定されます。
たとえば,A男とB子の不倫において…
- ①A夫婦は結婚1年目で子供はいない,B夫婦は結婚10年で8歳と5歳の子供がいる。
- ②A夫婦は資産家で地元の有名人。B夫婦はごく一般的なサラリーマン家庭。
- ③A男がB子に好意を寄せ,関係を迫った。
以上のような経緯があったとします。
結婚生活が長く,未成年の子供のいるB夫婦ですから,B男が不貞によって被るショックは,一般的にA子が被るショックより大きいと考えられます。また,A夫婦は資産家ですから,「もう二度と不貞をしないように」という制裁的な意味でも,A男がB男に支払うべき慰謝料額は,高額になるでしょう。更に,A男の方が不貞関係に積極的だったようですから,不倫関係についての責任はB子よりA男が重いと考えられ,A男が支払うべき慰謝料額は高額になるかもしれません。
以上の点を考慮すると,A男がB男に支払うべき慰謝料額と,B子がA子に支払うべき慰謝料額にはかなり差が生じる可能性があります。それでも当事者同士が「ゼロでもいい」というのであれば問題ありませんが,通常B男は,「自分の被った苦痛はA子なんかよりずっと重い!」と感じるでしょう。そのような状態で,「ゼロ和解」に合意するとは思えません。
また,法的な観点からみると,それぞれの慰謝料額にあまり差が出ないような場合でも,不貞をされた方にとっては,「自分の苦痛はそんなものじゃない!」という気持ちが強いでしょうから,「痛み分けで解決しましょう」と言われても納得できないかもしれません。
ですから,「お互い請求はしない」という同意をとりつけることは,現実問題として難しいケースが多いのです。
関連記事:ダブル不倫(W不倫)の解決方法―問題になるパターンや慰謝料の減額方法まで解説
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4.おわりに
ダブル不倫の慰謝料請求は,複雑です。相殺的にゼロで解決できるからあっさり解決できそうと思われるかもしれませんが,当事者同士ではそうもいきません。「あなたの苦痛と私の苦痛は違う!」という思いがお互いにありますから,当事者同士の話し合いで解決することはほぼ不可能でしょう。
配偶者の不貞相手に慰謝料請求をしたいけど,不貞相手にも配偶者がいるようだ,という場合,ことは複雑になる可能性が高いです。当事者同士で対峙して話し合いが拗れてしまう前に,専門家である弁護士に相談しましょう。
このコラムの監修者
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田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。