「職場に知らせる」と脅されての慰謝料請求は有効?
不倫中だということを、不倫相手から「職場に知らせる」と脅される可能性があります。
そのような場合、不倫の慰謝料とは別に慰謝料を請求できるのでしょうか?
今回は、「職場に知らせる」と脅された場合の慰謝料請求は可能なのかということについてご紹介します。
1 不倫中という事実を職場に知らせた場合どうなる?
不倫中という事実を職場に知らせた場合、名誉棄損の罪に問われる可能性があります。
(1)【名誉棄損とは?】
名誉棄損は、相手の社会的な評価を下げる行為を指します。
成立するのは、公然と事実を適示して社会的な評価を下げた場合です。
不特定多数の人が知れる場所(SNSなど)で事実を告げると、他の人へ広がっていく可能性が非常に高いです。
そのため、「公然と」という要件をみたすことになります。
「事実を適示する」のは、不倫中という事実を他の誰かに伝えることを意味します。
「社会的な評価を下げた」という文言はその言葉の通りで、不倫も当てはまるでしょう。
名誉棄損が成立すると、民事上だけではなく刑事上の責任も負うことになります。
民事上の責任は、損害賠償や慰謝料を請求しなければいけない責任です。
刑事上の責任は、刑罰を受けなければいけない責任を指します。
(2)【誰が職場に知らせても名誉棄損になる?】
①第三者が知らせた場合
社内不倫の場合であっても、同僚などの第三者が「〇〇さんが△△さんと不倫関係にあるらしい」という噂を流す可能性があります。
噂として流したとしても事実であれば、公然と事実を適示して社会的な評価を下げたと見なされます。
そのため、名誉棄損が成立する可能性は非常に高いと言えるでしょう。
成立すると不倫していた2人に慰謝料を支払う必要がでてきます。
それだけではなく、50万円以下の罰金や2年以下の禁固刑・懲役刑が科される可能性もあるのです。
②妻が知らせた場合
名誉棄損は、家族の場合でも適用されます。
そのため、妻が職場に知らせた場合でも罪に問われる可能性は非常に高いと言えます。
夫婦と不倫相手が同じ会社に勤めていた場合でも妻が同僚に事実を話せば名誉棄損になってしまうのです。
不倫されたことに腹を立てていろいろな人に言いたくなる気持ちも分かりますが、そうすることで自分自身が加害者になる可能性があることを知っておく必要があります。
③不倫相手が知らせた場合
不倫相手が知らせた場合でも、名誉棄損の罪に問われる可能性が高いです。
会社に押しかけて騒ぎ立てると、業務妨害になってしまうケースもあります。
また、「職場に知らせる」と脅すことによって脅迫罪が成立する可能性もゼロではありません。
好きな相手が離婚をしてくれないからといって社会的に不利益な立場へと貶めるのは自分自身の身を亡ぼすことにもなりかねないので、行動には気を付ける必要があります。
2 職場に知らせた時に法的責任は発生するのか?
不倫中という事実を職場に知らせて名誉棄損は成立した場合、どのような法的責任が発生するのでしょうか?
(1)民事上の責任によって慰謝料が発生
名誉棄損は、民事上の不法行為とみなされることが民法709条に書かれています。
民事上の不法行為とみなされた場合、相手に慰謝料を支払うという責任が発生するのです。
配偶者と不倫相手が同じ職場に勤務していた場合は、双方に対する慰謝料が発生します。
不倫された場合妻が慰謝料を支払って貰う立場になりますが、職場に知らせた段階で立場が逆転してしまいます。
不倫相手が職場に知らせた場合も、不倫の慰謝料だけではなく名誉棄損の慰謝料も支払わなければいけないという状況になるでしょう。
(2)刑事上の責任によって刑罰を受ける
成立した場合、刑事告訴をすると刑罰を受けることになります。
配偶者もしくは不倫相手が刑事告訴すると、3年以下の懲役もしくは禁固刑、50万円以下の罰金など重い罪を科されることになってしまいます。
(3)社会的制裁を受ける可能性もある
周りから見ると不倫や離婚はただのゴシップです。
世間話の良いネタにもなるため、近所の人から面白半分で声を掛けられたり、ネット上に晒されたりする可能性もないとは言い切れません。
そうなってしまうと、不倫相手と配偶者だけではなくあなた自身の社旗的評価も低下することになってしまうでしょう。
3 証拠がない場合はどうなるの?
「職場に知らせる」と脅された時に、しっかりと証拠がある場合とそうでない場合があります。
証拠がなかった場合はどうなるのでしょうか?
(1)証拠がなかった場合はどうなる?
証拠がない状態で職場に知らされた場合でも、名誉棄損は成立します。
なぜかというと、名誉棄損は公然と事実を適示して社会的な評価を下げることで成立するためです。
たとえ事実でなかったとしても、知らせることで社会的な評価は下がります。
そのため、名誉棄損が成立するのです。
(2)名誉棄損罪と侮辱罪の違い
よく似た罪に侮辱罪があります。
侮辱罪は、とにかく相手を罵倒することによって成立する罪です。
つまり、事実を適示して社会的な評価を下げた場合は名誉棄損罪、事実を適示することなく相手を罵倒した場合は侮辱罪が成立することになります。
侮辱罪は刑法231条で科料もしくは拘留となっているため、名誉棄損罪よりは軽い罪だと言えるでしょう。
(3)侮辱罪はどのような場合が適用になる?
侮辱罪が適用になるのは、「バカ男」や「淫乱」などといって罵倒した場合になります。
一方名誉棄損罪は、「不倫して家族を捨てようとしている」とか「会社に大きな損害を与えるようなミスをしたできそこない」などと言いふらした場合です。
不倫をしたことや会社に損害を与えたことが事実だからです。
4 「職場に知らせる」と脅された場合の対処法
「職場に知らせる」と脅された場合、効果的な対処法はあるのでしょうか?
最後に、脅された場合の示談交渉についてみていきましょう。
(1)確実に止めさせることはできない
「職場に知らせる」という行為を確実にはっきり言って止める術がありません。
しかし、全く対処しないままだと誠意がないと思われ、さらに怒らせてしまう可能性があります。
そうなることを防ぐためには、きちんと謝罪し、慰謝料を支払う意向を示す必要があるのです。
そして、示談交渉を進めるのが良いと考えられます。
(2)弁護士からの受任通知で止まる可能性もある
弁護士に相談すると、相手に受任通知を送ります。
受任通知には、弁護士に連絡をすること、本人同士のやり取りはしないことなどが書かれています。
さらに、職場に知らせた場合は逆に法的な責任を取ることも書いておくケースもあるのです。
逆に慰謝料を請求される可能性があるため、相手は脅すのを止めるはずです。
(3)実際に知らされた場合は慰謝料の請求ができる
不倫相手に対して、慰謝料を請求するのは当たり前です。
職場に知らされた場合は、プラスアルファで名誉棄損の慰謝料を請求できるでしょう。
どの程度請求できるかは事例によっても変わってくるため、弁護士に相談することをおすすめします。
「職場に知らせる」と脅されている場合、慰謝料の請求ができます。
名誉棄損罪として認められる可能性が高いためです。
公然と事実を適示して社会的な評価を下げた場合に成立するため、実際に知らされた場合は確実です。
しかし、証拠がない状態だと侮辱罪になる可能性もあります。
侮辱罪は名誉棄損罪よりも軽い罪ではありますが、刑事罰を受けることになります。
「職場に知らせる」と脅されている場合の対策は自分一人では難しいものです。
離婚や不倫に強い弁護士に相談し、どうするのがベストなのか考えてみてください。
そうすることで、問題を大きくすることなく解決へと導いていけます。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。