【対処法とリスク】慰謝料を踏み倒して払わないとどうなる?慰謝料請求から逃げられる?
不倫がバレてしまい慰謝料請求された。「一度は合意して書面にサインまでしたけど,落ち着いて考えてみたら高額すぎるのでは…?」「早く終わらせたいからサインしたけど,払うつもりなんて最初からなかった」
慰謝料請求から逃げられるのでしょうか?
慰謝料を支払う義務がある場合、どうすれば支払わずに済むのか、気になる方も多いでしょう。しかし、慰謝料を踏み倒すことは、法的にも道義的にもリスクが高い行為です。特に、公正証書や調停調書などで支払いを約束してしまった場合、強制執行や訴訟などの厳しい措置を受ける可能性があります。
では、具体的に、慰謝料を踏み倒すとどのような不利益が待っているのか、詳しく解説していきます。
目次
1 不倫や離婚慰謝料を踏み倒せるか?払わないとどうなる?
不倫の慰謝料を請求されたが,お金がなくて払えないという方もおられます。
あるいは,不倫の慰謝料について払わない、払いたくないという方もおられるかもしれません。
そもそも、不倫自体がない,相手が既婚者だと知らなかった,というような,慰謝料を払わなくてもよい場合もあります。
ただ,そうではなく,不倫も事実であるし,既婚者とも知っていた,それでも,気持ちの問題で,払いたくないという方もおられるかもしれません。
不倫の慰謝料を払わなくとも罰則がないなら,払わない,払いたくない。
不倫の慰謝料を踏み倒せるなら踏み倒したい。
では,果たしてそのようなことが可能なのでしょうか?
法的な手続きには様々な手段と場合があります。
それぞれの場合ごとに罰則があるのかどうか,差し押さえがされるのかどうか,踏み倒せるのかどうかを見ていきましょう。
そこで,それぞれの手段と場合を分けて解説させていただきます。
2 不倫や離婚慰謝料について口頭や内容証明郵便で請求されても払わないとどうなる?
まず,不倫の慰謝料は,口頭又は内容証明郵便などの書面で,「交渉」により請求されることが通常です。
つまり,いきなり裁判などの法的手続きを取られるわけではなく,交渉からスタートするのです。
交渉の場合には,慰謝料請求をされても,直ちに慰謝料を払わなくとも,何の罰則もありません。
また,交渉の場合だと,直ちに慰謝料を払わなくとも,給与や財産の差し押さえもされません。
そのため,不倫の慰謝料を請求されたとしても,払いたくないから払わない,踏み倒せるなら踏み倒す,と考えて,こうした慰謝料の請求に応じない,あるいは無視するというのも一つの考え方です。
しかしながら,無視をしていると,次に見ていくように裁判をされることもあります。
ですから,早期に解決をされたいということであれば,交渉で請求された際に,和解に向けて交渉をするというのも一つの方法です。
その際には,慰謝料をいくら払うか,あるいは接近禁止などの条項を入れるかどうか,などを考えていく必要があります。
3 不倫や離婚慰謝料について相手方と合意書を締結しても払わないとどうなる?
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先ほど見たように,裁判をされるのが嫌だったため,交渉で合意して,不倫の慰謝料を支払う約束をしたとします。
例えば,その場合,誓約書や合意書はほぼ間違いなく作成するでしょう。
少なくとも,何らかの書面に「●●万円を支払います」と記して相手に渡すはずです。
そしてこうした合意書を作成した場合には,その合意は原則として有効です。
約束や約束ですから,「やっぱり払いたくない」という理由で支払いを拒むことはできません。
しかし当事者同士で作成した合意書には,強制力、執行力がありません。弁護士が介入して締結した合意書であっても同様です。
合意書だけでは,強制的に慰謝料を支払わせることはできないのです。
その意味において,慰謝料請求をされても,合意書を締結したとしても,慰謝料を払わなくても罰則はありません。
また,合意書を締結して慰謝料を払わなくとも,給与や財産の差し押さえもされません。
そのため,不倫の慰謝料を請求されたとしても,合意書を締結しても,やっぱり払いたくないから払わない,踏み倒せるなら踏み倒す,と考えて,こうした慰謝料の請求に応じない,あるいは無視するというのも一つの考え方です。
しかし,合意書を締結した場合,例えば,慰謝料として300万円を払うという合意をした場合には,支払いを拒めば,相手も怒ることは必至で,訴訟を起こされることはほぼ確実です。
訴訟となれば,合意書がある以上,判決でも合意書通りの慰謝料の支払が認められる可能性が極めて高くなります。
例えば,慰謝料として300万円を払うという合意をしていた場合には,300万円を払え,との判決がだされることが通常です。
そして,判決が出ると,後述するように,結局は判決に基づいて強制執行(差し押さえ)されることになるでしょう。
そのため,合意書を締結することまでしたのであれば,素直に支払う方が早期解決には良いと言えます。
4 不倫や離婚慰謝料について公正証書を作成して払わないとどうなる?
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当事者同士又は弁護士を入れて交渉して,不倫の慰謝料の支払額を合意したけれど,「支払いを担保するため」と言われて,公正証書を作成した,という場合も少なくありません。
特に,分割での支払合意をしている場合は,公正証書を作成することが多いでしょう。
公正証書も,要件を満たせば,確定判決と同様,「執行力」を有する書面です。
そのため,公正証書に基づいて差し押さえされる場合があるのです。
公正証書が執行力を持つための最低限の要件としてあげられるのが,「強制執行受諾文言」の存在です。
これは,「合意通りの支払いを怠った場合には,強制執行されることに異議はありません」という内容の文言です。
この文言が無ければそもそも強制執行(差し押さえ)は認められませんが,公正証書を作成する以上,受諾文言が含まれないということはまずあり得ません。
公正証書を作成したのであれば,財産を差し押さえされるリスクは高いですから,「やっぱり慰謝料を払わない」というのは難しいでしょう。
ただし,これはあくまでも,民事的な不利益です。
ですので,公正証書を作成した場合でも,刑事的な意味合いでの罰則はありません。
5 不倫や離婚慰謝料について裁判されても払わないとどうなる?
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不倫の慰謝料を払わない,とか踏み倒せると考えて,無視したりしているとします。
あるいは,交渉しても,金額が折り合わずに,合意がまとまらないということもあります。
そうなると,請求する側としては裁判をしてくることが通常です。
不倫の慰謝料請求について,裁判にまで発展した場合,最終的な結末としては,大きく分けて,
①裁判所に判決を出してもらう
②裁判上で和解を成立させる
という2つのパターンが考えられます。
実は,裁判をしても②で解決されることが多いのが実務です。
裁判をしている間に裁判所の考える妥当な金額を双方に提案して,和解が成立することが多いのです。
そして,裁判上の和解が成立した場合には,「和解調書」というものが作成されます。和解調書には,確定判決と同様「執行力」が認められます。
そのため,和解調書が作成されている場合にも,慰謝料を支払わないと,強制執行(差し押さえ)されてしまうリスクがあるということです。
また,裁判上の和解も成立しない場合には,判決が出されることになります。
例えば,慰謝料として200万円を支払え,というものです。
確定した判決には,「執行力」という効力が認められます。
「執行力」とは,強制執行(差し押さえ)ができる効力のこといいます。つまり,確定した判決を持っていれば,執行の手続きを経れば,その判決に基づいて強制的に債権回収を図ることが可能なのです。
たとえば,不動産を差し押さえたり,預貯金を差し押さえることも可能です。また,相手の職場を知っているという場合には,給料の一部を差し押さえることもできてしまいます。
つまり,判決を取られている時点で,「やっぱり払いたくない」という理由で支払いを拒めば,強制的に財産を差し押さえられる可能性があるのです。
ただし,これはあくまでも,民事的な不利益です。
ですので,払わない場合に差し押さえのリスクはあっても,刑事的な意味合いでの罰則はありません。
6 判決や公正証書で確定した慰謝料を払わなかった場合は差し押さえされます
ここまでお話ししてきたように,判決や和解調書・公正証書があると,強制執行(差し押さえ)を防ぐことは困難です。
そのため,合意を締結する前に,合意内容に納得いかない点はないか,きちんと支払っていける額かを慎重に考慮する必要があります。
合意をしてしまえば,相手が任意に応じてくれない限り,内容の変更は難しいでしょう。収入が低く,支払い余力がないことを誠実に伝えれば,可能性は低いでしょうが,もしかすると慰謝料額の見直しに応じてくれるかもしれません。
一方,脅迫されて無理やり合意書にサインさせられたという場合には,合意を取り消すことが可能です。これを強迫による取消と言います。
「合意を取消すから慰謝料は支払わない」と拒んでいれば,相手は判決を得るために訴訟を提起してくるでしょうから,訴訟の中で,合意の取消を主張していくことになります。
しかしながら,実務上,強迫による取消の立証は難しく,まず認められません。
なお,合意が取り消されれば,合意内容は初めからなかったことになります。
もっとも,裁判所は,合意を取消したうえで,合理的な慰謝料額を認定する可能性が高いですから,結局は強制執行(差し押さえ)を避けることは難しいかもしれません。
7 差し押さえられる財産がバレていない場合に、財産開示請求されるとどうなる?
ここまで見てくると,ほとんどの方は,何かしら慰謝料を支払う方法を考えた方が良いという考えになられる方が多いとは思います。
しかし,それでも,中には「差し押さえされる財産がバレてないからまだ大丈夫!」という方もおられるかもしれません。
要は,差し押さえられる財産がバレなければ,差し押さえを受けないと考えておらえる方ですね。
しかしながら,財産開示請求という制度が存在します。
財産開示請求を受けた場合,債務者は正当な理由のない限り、財産開示期日に出頭し、財産について正直に陳述しなければなりません。
これに反すると,刑事罰(6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されます(民事執行法213条1項4号、5号)。
ですので,前科がつきます。
これは,不倫の慰謝料を払わず,無視して踏み倒そうとした結果の「罰則」であると言えます。
8 不倫や離婚慰謝料を一括で払えない場合はどうすればよいか?破産して踏み倒す?
不倫の慰謝料を請求されたが,やはりお金がなくて,慰謝料を払えないという方もおられます。
慰謝料が一括で払えない場合、やはりまずは減額交渉や分割交渉をして払える程度に負担を減らしてもらえるように動く必要があります。
払えないからと言って放置していれば、いずれは給与や保険の解約返戻金を差し押さえられる可能性が高くなります。
ここでまでくると,素直に不倫慰謝料を支払った方が良いように思えますが,最後の手段としては,破産して,慰謝料を払わず,踏み倒そうとするという方法もあります。
破産手続をして裁判所より免責許可決定を受ければ、不倫慰謝料の支払い義務は消滅するため、払わなくてもよくなります。
しかしながら、破産手続においてめぼしい財産は破産管財人により処分・換価されてしまううえ、一部の職業に就けなくなる、官報で公告される、新たな借り入れ等が難しくなるなどの無視できないデメリットもあります。
また,破産手続は,自身で行うことは極めて困難であるため,数十万円程度の弁護士費用もかかります。
そうであれば,破産手続は,慰謝料を本当に払えない場合の最後の手段として考えていただいた方が良いと思います。
なお、そもそも養育費の支払い義務は免れないうえ、慰謝料の算定に当たりDVの事実が評価されている場合には、慰謝料の一部が「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」によるものと評価され、支払い義務を免れない場合もありますのでご注意ください。
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以上お話ししてきたように,一度合意を締結してしまえば,かなりの不利益が待ち受けています。納得できない合意を締結してしまう前に,弁護士に相談して,合理的な慰謝料額を定めるべきでしょう。
また,既に合意を締結してしまったという場合でも,当初の合意内容や交渉次第では,訴えを提起される前に再度新たな合意を締結できる可能性も残されています。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。