夫が帰ってくるとイライラ…“夫源病”で離婚や慰謝料請求はできる?
“夫源病”という言葉をご存知でしょうか。
「夫が帰ってくるとイライラする・・。」
「夫が休みの日、家にいるのが辛い・・。」
そんな方は、夫源病かもしれません。
今回は夫源病を理由に離婚することができるのか、その対処法について解説します。
目次
1 “夫源病(ふげんびょう)”とは?
夫源病とは、夫が原因で妻がストレスを感じ、心身に不調が生じることをいいます。
「病」とついていますが、医者が命名したものであって、医学的な病名ではありません。
夫と妻が逆の場合を“妻源病”と呼ぶそうです。
夫源病の主な症状としては、頭痛やめまい、吐き気、動悸、胃痛、不眠などの身体的症状のほか、情緒不安やうつ状態といった精神的症状もあります。
原因は特定されておらず、夫の言動により生じる妻のストレスが大きく関係しているといわれています。
妻を夫源病にしやすい夫とは、以下のようなタイプです。
・亭主関白で、妻を見下している ・外面がよく人前では愛想がよいが、家では不機嫌 ・家事や育児を手伝わず、感謝もしない ・妻に対して労いの言葉を言わない ・妻に暴言を浴びせる ・妻の予定や行動を把握したがる |
一方で、夫源病になりやすい妻とは、以下のようなタイプです。
・真面目で我慢強い ・夫に対して口出ししない ・良き妻であろうとする ・家事や育児を完璧にしようとする ・小さなことで悩み、ストレスを感じやすい ・世間体を気にする |
また、夫源病を発症するきっかけとしては、夫が事故や病気などで休職したり、定年で仕事を辞めたりと、家にいる時間が長くなった時が多いようです。
2 夫源病を理由に夫と離婚できる?
結論から言うと、夫源病であることのみを理由に夫と離婚することは難しいです。
もっとも、絶対にできないというわけではありません。
どのような場合に離婚できるのか、以下でご紹介します。
(1)協議離婚の場合
協議離婚とは、夫婦で話し合って離婚の合意にいたり、役所に離婚届を提出するという離婚手続きです。
実際に、離婚している夫婦の約9割が協議離婚であり、一般的な離婚手続きといえます。
協議離婚の場合、夫婦の話し合いによって合意にいたれば離婚できます。
しかし、夫源病を理由として、夫と離婚の合意にいたることは困難な場合が多いでしょう。
妻を夫源病にしやすい夫の特徴として、外面がいいということをあげられます。
外面を気にして、離婚の話し合いには応じない可能性があります。
また、妻を見下している傾向があるため、そもそも離婚の話を持ち出した時点で、耳を傾けることをしない可能性があります。
他方で、妻自身も夫を目の前にすると夫源病の影響から、言いたいことを言えなかったり、離婚を考えた自分を責めてしまったりするかもしれません。
そのため、そもそも話し合うということ自体が難しいのです。
もし、離婚の話し合いをしようとするのであれば、親族や知人に同席してもらうことや、弁護士に依頼することをお勧めします。
(2)調停離婚の場合
調停離婚とは、調停委員の仲介のもと、夫婦間で離婚についての話し合いを行い、合意にいたれば役所に離婚届を提出して離婚するという離婚手続きです。
夫婦間の話し合いで合意に至らなかった場合であっても、第三者である調停委員が解決案を出すなどして話し合うため合意にいたる場合があります。
話し合いという点では協議離婚と変わらないため、やはり合意にいたることは難しいかもしれません。
仮に、合意にいたれば、離婚届けを提出して離婚することになります。
(3)裁判離婚の場合
ア.裁判で認められる離婚原因とは
調停で合意にいたらなかった場合、裁判を起こすことになります。
裁判で離婚が認められるには、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)が必要です。
法律で定められた離婚原因は、以下の通りです。
(裁判上の離婚) 第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 一 配偶者に不貞な行為があったとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。 四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。 五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 (略) |
イ.夫源病であること自体は法定離婚事由ではない
最初に述べましたが、夫源病は医学的に認められた病気ではありません。
そのため、4号の「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」とはいえません。
また、5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」ともいえません。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは、夫婦関係が破綻し、回復の見込みがないことをいいます。
たとえば、配偶者からDVやモラハラを受けていたり、長期間におよぶ別居状態が認められたりする場合です。
夫が近くにいるとイライラするからといって、ただちに夫婦関係が破綻していて、回復の見込みがないとはいえません。
ウ.夫源病を理由に離婚できるケース
夫源病となった原因が夫の不貞行為にある場合は、離婚できる可能性があります。
また、配偶者からDVやモラハラを受けていたり、長期間にわたって別居状態が続いたりしている場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と認められます。
そのため、離婚できる可能性があるといえます。
妻が夫源病になっているということは、日ごろから何らかの暴言を受けている場合もあるでしょう。
また、夫といるのが辛くて長期間別居している場合もあるでしょう。
そのような場合には、離婚が認められる可能性があります
関連記事:DVモラハラを原因とした離婚慰謝料請求〜相場や請求方法を解説〜
3 夫源病を理由として夫に慰謝料を請求できる?
結論から言うと、夫源病であることのみを理由として夫に慰謝料を請求することは難しいです。
離婚の場合と同様に、夫源病以外に理由があれば、慰謝料が認められる場合があります。
(1)夫源病であることのみを理由に慰謝料請求は認められない
慰謝料とは、不法行為によって受けた精神的苦痛を賠償するお金のことです。
不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利や利益を侵害する行為のことです。
妻が夫源病であるということは、精神的苦痛を受けているということができるかもしれません。
しかし、夫源病となった原因が特定できなければ、夫からの不法行為が認定できません。
そのため、夫源病であることのみをもって慰謝料を請求することはできないのです。
(2)慰謝料請求が認められる場合
不倫やDV・モラハラは、他人の権利や利益を侵害する不法行為に該当します。
そのため、夫による不倫やDV・モラハラなどが認められる場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。
夫源病となった原因が、上記のような夫からの不法行為による場合には、夫に対する慰謝料請求を検討しましょう。
関連記事:精神的苦痛(不倫・DV・モラハラなど)による慰謝料請求をするには?
4 離婚や慰謝料請求を考えた場合の注意点
離婚や慰謝料請求をする場合、相手が言い逃れできないよう証拠をそろえる必要があります。
まずは、不倫やDV、モラハラなどの証拠を集めましょう。
日常的に、夫から暴言を受けている場合には、暴言を録音した記録がモラハラの証拠となりえます。
また、知人の証言や心療内科の診断書なども証拠として認められる場合があります。
そのような証拠をそろえ、言い逃れできないようにしましょう。
5 夫が離婚に応じてくれない場合の対処法
夫源病のみを理由として離婚しようとする場合、夫が話し合いに応じなかったり、離婚に同意してくれなかったりする場合があります。
また、夫源病のみを理由とする場合は、裁判でも離婚の請求が認められることは困難といえます。
そのような場合に、妻としてはどのような行動をとるべきでしょうか。
(1)別居する
一度、別居してみることは、離婚するうえでも夫婦生活を続けていくうえでも有効な方法といえます。
別居期間が長くなれば、裁判において、離婚が認められる可能性が生じます。
また、妻自身、自立して生活できるという自信を手に入れることによって、離婚後の見通しを立てることができるでしょう。
他方で、これまで我慢していた妻が別居するという行動をとることによって、夫自身に変化が生じ、夫婦生活を続けていくきっかけになるかもしれません。
このように、別居することは、夫が離婚に応じてくれない場合の1つの対処法といえます。
(2)我慢せず言いたいこと言う
我慢強いことや、夫に口出ししないことは、古き良き妻の象徴として考えられていた時代があります。
しかし、それらは残念ながら夫源病になりやすい妻の特徴です。
また、そのような考えは、男女平等という現代の価値観とはズレています。
我慢することを否定するわけではありませんが、我慢せずに言いたいことを言うことも、夫婦生活を営んでいくうえで大切なことです。
時には夫に対し、言いたいことを言ってみましょう。
夫婦関係や夫源病が改善されるきっかけになるかもしれません。
6 まとめ
今回は、夫源病を理由に離婚や慰謝料請求できるのかについて解説しました。
“夫源病”とは、夫が原因で妻がストレスを感じ、心身に不調が生じることをいいます。
原因は特定されていませんが、夫の言動により生じる妻のストレスが大きく関係しているといわれています。
妻が夫源病である場合、夫と話し合うことは困難な場合が多く、話し合いによって離婚や慰謝料を請求することは難しいでしょう。
また、夫源病は法定離婚事由ではないため、夫源病であることのみをもって離婚や慰謝料の請求することは難しいです。
しかし、夫源病となった原因が夫による不倫やDV、モラハラにある場合は、離婚や慰謝料請求が認められる可能性があります。
そのような場合には、夫が言い逃れできないよう証拠を集めておきましょう。
夫がどうしても離婚に応じてくれない場合は、別居することも検討してみてください。
もし、ご不安な様でしたら、お一人でお悩みならず、一度弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。