マタニティーブルーが原因で離婚や慰謝料請求はできるのか?親権や養育費についても解説
「子どもを出産しましたが,このまま結婚生活を続ける自信がありません。」
マタニティーブルー(マタニティブルーズ)とは,産前・産後における軽度のうつ症状のことをいいます。
出産は,人生の一大イベントの1つであり,個人差はありますが,産前・産後ともに精神状態が不安定になることがあります。
「このまま子どもを産んで大丈夫なのだろうか」,「将来のことが不安で結婚生活を続けていく自信がない」などと考え,離婚を考える方も少なくありません。
今回は,そんなマタニティーブルーの原因や解決法,マタニティーブルーを原因とする離婚や慰謝料請求などについて解説します。
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目次
1 マタニティーブルーとは?妊娠中に現れる心の問題
妊娠中や出産後の時期における軽度のうつ症状のことです。
急に気持ちが落ち込んだり,涙が出てきたり,漠然とした不安に駆られたりすることがあり,情緒不安定な状態が続きます。
症状には個人差があり,症状がひどい場合には,「産後うつ」へと発展する可能性もあります。
(1)マタニティーブルーの原因
環境の変化によるストレスや睡眠不足,思うように赤ちゃんの世話ができないなど,様々な原因が挙げられます。
なかでも,急激な女性ホルモンの低下が大きな原因と考えられています。
通常は,一定のリズムでホルモンの調整が行われていますが,妊娠中や出産後はホルモンバランスが大きく崩れます。
ホルモンバランスが乱れることによって,心や身体に大きな影響を及ぼし,マタニティーブルーになると考えられているのです。
(2)マタニティーブルーが続く期間
マタニティーブルーはいつまで続くのかというと,個人差があり,3日ほどで症状が治まるケースもあれば,1週間から2週間ほど症状が続くケースもあります。
あまり長引くと,産後うつ病に移行することもあるため,症状の強い場合や,もともと精神科や心療内科に通院している方は,一人で抱え込まず,なるべく早く助産師や産婦人科医にご相談ください。
(3)マタニティーブルーの解決法
原因は人によって様々であるため,解決法も様々です。
基本的に,症状は一過性であるため,産後10日程度で軽快するようです。
しかし,原因がはっきりしている場合には,原因を取り除くことが必要となります。
主に,以下のような解決法が挙げられます。
・夫と話し合って理解してもらう ・外へ出かける,運動するなどの気分転換を図る ・感情を思いっきり出す ・無理せずしっかり休む ・家族や友人に思っていることを話す |
2 マタニティーブルーが原因で離婚できる?
結論から言うと,マタニティーブルーのみを原因として離婚できる可能性は低いです。
マタニティーブルーは,一過性の場合が多いですが,症状が現れている時期に配偶者との関係が悪化し,離婚を考えるケースも珍しくありません。
(1)話し合いで離婚することはできる
マタニティーブルーが原因で離婚したい場合,夫と話し合い,合意にいたれば離婚可能です。
しかし,離婚は赤ちゃんの今後に重大な影響を及ぼします。
また,マタニティーブルーは一過性で自然に治る場合がほとんどです。
後悔のないように,夫や家族や助産師,産婦人科医などにしっかり相談して,関係を継続することを一度考えていただき,それでもどうしても離婚したいのであれば離婚を切り出すようにしましょう。
(2)裁判では離婚が認められない可能性がある
話し合いで,夫が離婚に応じない場合には,調停となり,調停でも合意に至らなければ裁判となります。
裁判において,離婚が認められるには,法律で定められた離婚理由(法定離婚事由)が必要となります。
法律で定められた離婚理由は,以下の通りです。
・不貞行為があった ・悪意で遺棄された ・配偶者の生死が3年以上不明 ・配偶者が回復の見込みのない強度の精神病にかかった ・その他婚姻を継続し難い重大な事由がある |
マタニティーブルーであったことは,法律で定められた離婚理由にあたりません。
そのため,裁判上,マタニティーブルーが原因で,ただちに離婚が認められることはありません。
マタニティーブルーであった期間中に夫婦仲が悪化し,夫に暴言を吐かれるなどの精神的DVを受けた,別居するに至ったなどの理由があれば,「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し,離婚が認められる可能性があります。
3 マタニティーブルーが原因で離婚したら慰謝料請求できる?
結論から言うと,マタニティーブルーが原因で離婚する場合,慰謝料請求は難しいです。
(1)慰謝料請求が認められるには
慰謝料とは,不法行為によって受けた精神的苦痛に対する賠償金のことです。
例えば,配偶者の暴力やモラハラなどによって精神的苦痛を受けた場合には,慰謝料を請求できます。
マタニティーブルーが原因で離婚する場合には,基本的に,配偶者からの不法行為が認められないため,慰謝料請求ができません。
(2)離婚した場合に慰謝料請求できるケース
夫に離婚の責任があると認められる場合には,慰謝料請求が認められる可能性があります。
夫による「不貞行為」や「DV・モラハラ」が原因で離婚にいたるケース,マタニティーブルーとなった後に夫が家に帰ってこなくなり,「悪意の遺棄」が原因で離婚にいたるケースなどでは,慰謝料請求が認められる可能性があります。
裁判で慰謝料を請求する場合は,夫の不貞行為や夫から暴力を受けていたこと,悪意で遺棄されたことなどの事実を証拠によって明らかにする必要があります。
そのため,必ず証拠を集めておきましょう。
関連記事:精神的苦痛(不倫・DV・モラハラなど)による慰謝料請求をするには?
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4 マタニティーブルーで離婚したら親権や養育費はどうなる?
(1)親権について
夫婦が離婚する場合,必ず親権者を決めなければ離婚することはできません。
妊娠中に離婚する場合,原則,親権者は母親となります。
一方で,出産後の場合は,夫婦の話し合いや調停によって決めることになります。
離婚することや離婚条件について,話し合いで合意に至らない場合は,最終的に裁判所が決めることになります。
生まれたばかりの赤ちゃんや乳児の場合には,ほとんどのケースで母親が優先されます。
「幼い子どもにとって母親は必要不可欠であり,子どもは母親と暮らした方が幸せである」という「母性優先の原則」がという考え方があるためです。
ただし,母性優先の原則も絶対的なものではなく,具体的な事情によっては,父親に親権が認められるケースもあります。
親権の具体的な決め方については,以下の記事をご参考ください。
関連記事:離婚時の親権はどうやって決まるの?具体的な決め方と流れ
(2)養育費について
親は,子どもを監護するための費用を分担する義務があり,監護費用には養育費が含まれます。
そのため,親は養育費を支払う義務があります。
子どもを出産後に離婚する場合,元夫は子どもの父親です。
妊娠中に離婚した場合,離婚後300日以内に出産した場合は,嫡出推定によって,元夫が子どもの父親になります。
離婚後300日よりも後に出産した場合,元夫が認知すれば,子どもの父親となるのに対し,認知しなければ父親となりません。
下記表は,“どのような場合に,養育費を支払う義務が認められるのか”をまとめたものです。
出産後に離婚する場合 | 支払い義務あり |
妊娠中に離婚する場合 – 離婚後300日以内に出産 – | 支払い義務あり |
妊娠中に離婚する場合 – 離婚後300日を過ぎて出産・認知◯ – | 支払い義務あり |
妊娠中に離婚する場合 – 離婚後300日を過ぎて出産・認知× – | 支払い義務なし |
ただし,養育費は,具体的な支払金額や支払方法などについて,夫婦間で取り決めなければ請求できません。
そのため,離婚時に必ず養育費の取り決めを行いましょう。
夫婦間の話し合いによって取り決めた場合には,合意書などの書面を作成し,公正証書にしておきましょう。
養育費の取り決めや請求に関しては,一度,弁護士に相談することをお勧めします。
関連記事:養育費を払わないで逃げられた!未払いの養育費を回収する新しい方法
5 まとめ
今回は,マタニティーブルーの原因や解決法,マタニティーブルーを原因とする離婚や慰謝料請求などについて解説しました。
マタニティーブルーになると,急に気持ちが落ち込んだり,涙が出てきたり,漠然とした不安に駆られたりすることがあり,情緒不安定な状態が続きます。
夫婦仲が悪くなり,離婚を検討する方も少なくありません。
しかし,マタニティーブルーは基本的に一過性のものであるため,夫と話し合ったり,家族や友人に相談したりして,本当に離婚すべきなのか,改めてよく考えることをお勧めします。
それでも,離婚や慰謝料を請求するという場合には,まずは夫婦で話し合いましょう。
最終的に,裁判となった場合には,必ず証拠が必要となるため,証拠を集めておくようにしてください。
もし,夫婦の話し合いがうまくいかない,今後どのようにしたら良いか分からないといった場合には,一度,弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。