ポリアモリー(複数恋愛)は法的にNG?慰謝料請求される可能性あり!
ポリアモリーは「複数恋愛」「多重恋愛」等と訳され,当事者全員の合意のうえで,同時に複数の人と恋愛関係を築く恋愛スタイルや考え方をいいます。
対して、日本で法定婚姻制度となっている一夫一妻制は、モノガミーといわれています。
人によって多種多様な価値観や考え方があるということは,わざわざ言うまでもありません。恋愛観も人それぞれかと思います。
それでは,配偶者がポリアモリーである場合,自分以外の人と肉体関係をもった配偶者に対して慰謝料を請求することはできないのでしょうか。
逆にいえば,自分がポリアモリーである場合であっても,配偶者以外の人と肉体関係をもてば配偶者から慰謝料を請求されてしまうのでしょうか。
本コラムでは,ポリアモリー(複数恋愛)を理由に慰謝料請求できる(される)可能性について,弁護士が法的な観点から解説いたします。
1 ポリアモリー(複数恋愛)とは?浮気・不倫の考え方
「配偶者がいるにもかかわらず,その配偶者以外の人とも恋愛関係を築く」
これだけを聞くと,世間一般にいう浮気や不倫と何ら変わらないようにも思えます。
しかし,先程説明したとおり,ポリアモリーとは,当事者全員の合意のうえで,同時に複数の人と恋愛関係を築く恋愛スタイルや考え方のことです。
この「当事者全員の合意のうえで」という部分が,浮気や不倫とは大きく異なるポイントになります。
そのため、ポリアモリーでは、恋愛関係の人の中で一人でも当事者全員の合意が得られていない人がいると、浮気や不倫になると考えられているそうです
2 ポリアモリー(複数恋愛)は法的にNG?
配偶者以外の人と恋愛関係を築くポリアモリー(複数恋愛)は,法的に許されるのでしょうか。
ポリアモリーは,あくまで当事者全員の合意のうえで同時に複数の人と恋愛関係に至るものです。
そのため,ポリアモリーであることを結婚後に配偶者に打ち明けたというような場合には,いくら「自分はポリアモリーなんだ」と主張したとしても,配偶者以外の人と肉体関係をもてば,当然不貞行為であるとして慰謝料が請求される可能性があります。
ポリアモリーであることについて事前に配偶者等の同意を得られていないのであれば,配偶者以外の人と性的関係となることは単なる浮気や不倫と相違ありません。
では,結婚をする前にポリアモリーであることを打ち明けて相手の同意を得ておけば,結婚後に配偶者以外の人と肉体関係を持ったとしても,慰謝料を請求される可能性はないのでしょうか。
まず前提として,夫婦は配偶者以外の人と性的な関係をもってはならないという,貞操義務を負っています。
配偶者以外の人と性的関係をもつことは,この貞操義務に違反する行為です。
そのため,不倫すなわち不貞行為に及んだ人は,配偶者の「法律上保護された利益」を侵害したとして,それによって配偶者が被った精神的損害を慰謝料という形で賠償しなければならないことになります。
しかし,そもそも配偶者が自分以外の人と性的関係をもつことを事前に認めていたのであれば,配偶者自身が自分の権利を放棄したことになるため,「法律上保護された利益」は侵害されていないとして慰謝料の請求が認められなくなる可能性があります。
とはいえ,ただ口頭でポリアモリーであることを認めてもらうだけというのは,言った言わないで水掛け論になりかねず,非常にハイリスクです。
配偶者以外の人と性的関係をもつことについて事前に相手の承諾を得ておくことを考えているのであれば,きちんと同意書等を作成しておくことをおすすめします。
ただし,結婚前にポリアモリーであることを打ち明け,相手がそれを受け入れたやりとりの証拠さえあれば確実に慰謝料請求が認められなくなるというわけではありませんので,注意してください。
配偶者が自分の権利を放棄したとまでいえるためには,「相手がポリアモリーであることを受け入れ自分以外の人と性的関係をもつことを容認」した配偶者の行為が,配偶者の真意にもとづくものであると認められる必要があります。
また,仮に一度,同意書を得ていたとしても,その後やはり気が変わって,他の異性と性的関係を持つことを認めない,となった後に,他の異性と性的関係を持ってしまえば,それはやはり同意がないことになるので,慰謝料請求が認められる可能性は高いでしょう。
基本的に,配偶者が自分以外の人と性的関係をもつことを容認するという状況は,考えがたいところです。
そのため,その容認が配偶者の「真意」に基づくものであったと認められるためのハードルは相当高いものであると考えていただいたほうが良いかと思います。
やむをえずポリアモリーであることを受け入れただけで,本心で相手が自分以外の人と性的関係をもつことを許容したわけではないと考えられる場合には,慰謝料請求が認められる可能性は高くなります。
以上から,「ポリアモリーだから」,不倫(他の異性との性的関係をもつこと)が,許されることにはならない可能性が極めて高い,ということです。
したがって,安易に「ポリアモリー」であるという理由で,他の異性と性的関係を持つのは控えた方が良いでしょう。
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3 ポリアモリー(複数恋愛)に似た状況で慰謝料請求された事例
「ポリアモリー」という考え方に言及したうえで慰謝料請求について判断したものはまだありませんが,配偶者が自分以外の人と性的関係をもつことについて容認していたかどうか争点となった裁判例を,いくつか紹介いたします。
・東京地裁平成16年2月19日 妻が,夫(A)と結婚する際,Aに対し,「結婚するにあたり A様が浮気してもやむを得ません 騒ぎません ここにその事を誓います」という誓約書を差し入れていた事案。 →「本件誓約書は,Aが婚姻を切望する原告の弱みに付け入り交付させたものであり,原告の真意を反映したものとは解されず,その内容も,婚姻時にあらかじめ貞操義務の免除を認めさせるものであって,婚姻秩序の根幹に背馳し,その法的効力を首肯し得ないばかりか,社会的良識の埒外のものである。」とし,妻による不貞の容認は真意に基づくものではないとして,慰謝料の請求を認めました。 |
・東京地裁平成25年1月18日 妻が,夫(A)の不貞相手と直接話し合った際,不貞相手に対して「こんな男でよければ差し上げます。」と言った事案。 →「これは,原告が,Aの不貞行為を疑い,その相手と考える被告を前にしての発言であって,その状況から冷静な判断の下での発言であると解することはできない。よって,原告がこのような発言をしたからといって,被告が,原告においてAと被告との不貞関係を容認しているものと信頼していたとは認め難い。」として,慰謝料の請求を認めました。 |
・東京地裁平成28年10月12日 夫が,妻(A)の不貞相手に対して,「小生の家内,Aを愛人としてご利用いただき」「貴兄はAを必ず幸せにするし,将来一緒になろうと,口説いたそうですね!小生は貴兄がその様な気持ちでいるなら頑張ってみろ!とAに応援してまいりました」等と記載した手紙を渡して,不貞相手に対して経済的援助を求めた事案。 →「原告は,婚姻当初から被告とAの関係解消に至るまで,Aの交際を知りつつ容認していたといえるのであって,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益が侵害されたとはいえないから,被告の行為は不法行為とならないというべき」とし,仮に被告とAの交際が不貞行為にあたるとしても,本件における経緯に照らせば,「原告の慰謝料請求は権利の濫用に該当する」として,慰謝料の請求を認めませんでした。 |
4 まとめ
結婚前にきちんとポリアモリーであることについて配偶者に説明し,他の人と性的関係をもつことについて容認されていないのであれば,いくら後から「自分はポリアモリーだから」と主張しても,それはあくまで不貞行為であるとして慰謝料が請求されてしまう可能性は高くなります。
また,仮に事前にポリアモリーであることについて配偶者に説明し,それを容認してもらっていたとしても,その容認が配偶者の「真意」に基づくものであると認められるかどうかについては,当事者の言動や容認に至るまでの経緯等さまざまな事情を考慮することが必要となり,その判断は容易ではありません。
ポリアモリーを理由として自分以外の人と性的関係をもった配偶者に対して慰謝料請求を考えている方,慰謝料請求がなされそうな方は,一度弁護士にご相談ください。
このコラムの監修者
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
弁護士法人 法律事務所 ロイヤーズ・ハイの代表弁護士を務める。 大手法律事務所で管理職を経験し、また100人以上の方の浮気、不貞、男女問題に関する事件を解決。 お客様を精一杯サポートさせていただくことをモットーとし、 豊富な経験と実績で、最善策の見通しを即座に迅速かつ適切な弁護活動を行う。